二人の軌跡
三年前、地球で国家間の戦争があった。その戦争の中心となった戦力は、戦闘機から二足歩行人型兵器へと変形するロボット――通称エクスタート――だった。
この争いに集結を導いた三人のエースパイロット、アサト・テクニカ、カルト・シュライク。そしてもう一人、バライク・ヘンリー。彼らは、第九特殊艦隊に所属していた。
その中でも特に隊長を務めたバライク大尉は彼ら二人を率いて数々の戦果を上げ、仲間達から英雄と崇められて、敵からは死神として畏怖される対象だった。
アサト・テクニカはいつものように、上官から呼び出しをくらっていた。彼はどうせいつもの厳重注意か、部署移動だと勝手に決めつけていた。
彼は戦争終結後、あらゆる部署をたらい回しにされていた。それ以降は、演習での自分勝手な行動が目立ち、凄腕パイロットから厄介者として。
上官の執務室の前に着き、中にいる人物とコンタクトがとることが出来る、壁に備え付けの端末を操作する。
しばらくして、その端末が問合わせ中を示す青の光から、許可が下された緑色に変わり、自動で扉が開いた。
アサトは中に入り、敬礼して上官の言葉を待つ。
「今回、君を呼んだのは君の部署の移動だ。明日から新型エクスタート、ディノウのテストパイロットとなってもらう。競争機であるヴィンティウより優れていることを証明しろ。話は以上だ」
アサトはこの話を聞いて、ほんの一瞬だけ目が少しだけ動いたのだった。
カルト・シュライクは今日も試作機ヴィンティウのテストのためコックピットにいた。
「本日のテスト内容は隠密状態の的を発見および模擬弾で攻撃。そして最終的に要した時間と標的を正確な射撃がスコアになります」
オペレーターの通信が入った後、詳細なデータが送られてきた。カルトはそれに一通り目を通してから、出撃シーケンスに移る。
基本的にエクスタートは格納庫に戦闘機の状態で収容される。この基地にある二機の試作機も例外ではない。
ヴィンティウの主翼は可変型のクリップトデルタ翼で、バーニアの部分に双尾翼がついている。キャノピーの後ろ部分に一つのアンテナがついている。
カルトの機体が滑走路にでる。バーニアを吹かして離陸してテストポイントに到着した。
「これよりΣ(シグマ)1。テストを開始してください」
カルトに機体に通信が入った。Σ1とは彼が乗っているヴィンティウのコールサインである。
「これより∑1。テストを開始します」
彼の報告が終わったあと、トライアルが始まった。すぐさま各種センサーおよびレーダーを使い探知を始めた。すぐさま引っ掛かり、標的に向けて移動を開始する。
目標に近づいたあと、人型へと変形しロックオンした。ガンポッドを向けて射撃。弾は正確に目標の中央に着弾していた。
それを見届けたあと、すぐさま次の目標を探し、戦闘機へと変形して移動を開始していた。
そして最後の標的を攻撃して、オペレーターからの通信が入る。
「お疲れ様です。Σ1はただちに基地へ帰投してください」
カルトは基地に向けて移動した。
「さすがです、カルト中尉。従来の機体と、生半可なパイロットでは出せないハイスコアです」
カルトがテストをしている最中、ある男は格納庫にいる整備員に質問を投げていた。
「新型のエクスタートのディノウってのはコイツかい?」
「ああ、そうだ。って何だ……新入りか?」
それ以上は整備員が興味を失ったのか、自分の作業を再開していた。
男は更衣室へと向かい、そこでディノウ専用のパイロットスーツを発見して着替える。そのままさっきの格納庫へと戻り誰にも気づかれないようにディノウのコックピットへと潜り込んだ。
ディノウの主翼は前進翼で後ろのバーニアの部分についている。先尾翼もありV字型をしている。後尾翼もあり、バーニアの上に垂直に片方一基ずつある。
彼はディノウを起動させ、滑走路へと移動した。
「おい、誰が動かしている。降りろ、貴様!」
周りの整備員が彼に忠告するが、まったく聞く様子がなく、そのまま機体を発進させる。
ディノウにオペレーターからの通信が入る。
「Ζ(ゼータ)1、ただちに基地へと戻ってください。繰り返します――」
男はカルトが行ったテストの開始場所にきた。
「おい、オペレーターさんよ。ここだろ? さっきのテストの開始地点は」
「え? は、はい。そうですけど……」
男は口元にやりと歪ませ、続けて宣言する。
「これよりΖ1。テストを開始する」
そのあと有無を言わさず始める男。その瞬間から、通信を拒否する。それ以降は、誰にも邪魔をされずに、黙々とテストを始めた。
結果、さきほど行ったヴィンティウと同じスコアを叩き出していた。初めてこの機体に乗った男が、だ。
テストを無理矢理に行った男は通信回線を開き、声高らかに自己紹介した。
「本日からこのディノウのテストパイロットに着任した、アサト・テクニカ中尉です――」
アサトが格納庫に戻ると、そこには待ち伏せていたかのように、カルトの姿があった。
アサトはカルトの姿を見て、彼は顔を引き締める。
「久しぶりだな、アサト。相変わらず自分勝手な奴だな、貴様は……」
カルトの前を通ろうとしたとき、敵意を隠そうともせず、剥き出しで話しかけられた。
「うるせー。テメェは嫌みを言いにここにきたのか。ヴィンティウのパイロットさんは。ってことはテストパイロットって案外暇なんだな。いや、テメェが暇なだけか?」
だから、彼も同様の感情を込めて返答する。
「テストパイロットが俺だと知っていたのか?」
「バーカ。テメェの堅苦しい動きでわかんだよ」
「貴様に言われる筋合はないな」
彼はカルトに向き直り、睨みつける。カルトはそう様子に動じず、口元をニヤりと歪ませる。
「テメェが暇している間にトライアルで決定的な差を作ってやるから、今に見ていろ」
「貴様こそ勝手な行動を起こして、今度はトライアルを中止させないように気をつけることだ」
カルトは背を向け、歩きながら言って話は終わる。彼が歩き出そうとしたとき、別な二人の男に声をかけられた。服装からは技術者にしか見えない。
「あなたがアサト・テクニカ中尉ですね。私がディノウの開発者のラグノフです。二度と私のディノウを乱暴に扱わないでください」
ラグノフと名乗った男は睨みつけるような目で、アサトに言いつけ、そのまま立ち去ってゆく。
「僕はヴィンティウの技術者、スノウと言います。ラグノフと私は友人です。よろしくお願いします」
アサトは彼と握手をしたのちに、基地内のコールがかかり、内容は彼の司令室への呼び出しだった。スノウに別れを告げて部屋へと行き、そこで三日間ディノウへの搭乗禁止の処分が言いわたされた。
次の日、アサトは早朝の自主訓練を終わらせて朝食を取るために食堂へと来ていた。この基地は辺鄙(へんぴ)な所で、辺り一面が荒野だ。今まで色んな基地に飛ばされてきたが、食堂はどの基地でもメニューや味、光景はさほど変わらない。
いつも朝の恒例メニューを受け取り、誰もいない席へと座る。他の基地での話だが、少し早めの時間に来ているため、他の人はあまりいない。