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巨岩の絵

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巨岩の絵





 富沢茂は大きな岩の絵を描いていた。イーゼルに固定したキャンバスに、彼は油絵具でそれを描いている。斜めに緑色の線が何本か入っているその逆三角形に近い形の岩の頂きは、川からの高さが二十メートル以上もあり、その上から水に飛び込むには、ちょっと勇気が要るに違いない。もしもそれを決行するならば、川の水かさがどの程度なのか、確認するべきだろう。
 巨岩の向こう側には鉄橋が見えている。それがずっと上流なので、列車がそこを通過する遠慮がちな音が聞こえるのも、一時間に一度というところだろうか。今日は風もなく、その周囲の木立も静かだった。時折富沢の耳元で蜂が羽音を聴かせることもあるのだが、それを除けば、川の流れも緩やかで、そこはほぼ無音の世界だった。五月の陽光が、岩の周囲を輝かせている。
作品名:巨岩の絵 作家名:マナーモード