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永遠に続くかと思われた1は唐突に跡絶えた。なんだ、この数は。これだけの人が、亡くなったというのか。人間は、なんという…。
「彼は」
ぐったりとした僕の横で、老人はある「1」を指さした。
「小さい頃盗みを働いて捕まったことがある」
僕はその「1」に目を向けた。しかし、僕にはその「1」と他の「1」の違いがわからない。
「彼女は」
老人は今度は別の「1」を指さした。
「仕事熱心で、表向きはそう出したりしないが、とても部下のことをよく考えていた。この日、彼女は部下を優先して逃がし真っ先に死んだ」
老人はもはや座り込みそうな僕を残して、躊躇なく歩いて行く。
なんだ、なんなんだ、これは、一体。
「人には、みな」
老人は静かに言った。
「防衛本能というものが備わっている。自己を破壊するような嫌なこと、辛いことからは目を逸らすと言うことだ。歴史は繰り返すという諺(ことわざ)を知っているのに、繰り返さないようにする努力はしない。人は忘れる。そして繰り返す。苦しみを。悲しみを。何度も、何度も、何度も何度も何度も」
僕は何も反論できなかった。それは正論だった。人は愚かだ。目先のことしか、見ようとしないのだから。
笑い会う団欒の先で流れる深刻なニュースに何の意味があるというのだ?誰かが笑って言っていた。「暗いニュースなんて見ないよ。ショッピングとか、化粧とか、そういうのにチャンネル変えちゃう。政治だって良くわかんないし。あたしに関係ないもん。暗いことなんて聞いても気分が落ち込むだけ。良いことだけ見なきゃ!」そう、そうなのだろう。それはある意味、平和でいられる日常の非情な正解かもしれなかった。自分に関係のないことには固く目を瞑り、耳を塞ぐ現実は。座ってテレビを見、食事をしながら新聞をめくるだけの私達はそれでいいのかもしれない。飛行機が墜落したって、当事者じゃないから、チャンネルを変えるだけで楽しい話題にうつれる。ばらばらに焼け焦げた肉親を探す人の涙は、当人の頬しか濡らさない。大切な人の名を叫び続け、掠れた声も、ちぎれた心も、本当の意味では誰にも届きはしないのだろう。
その辛さはきっと、自分自身が報道される側になって初めてわかること。チャンネルを変えられる側になって、何十、何百、何千もの「1」のなかのひとつになって、きっと初めてわかるのだ。
何故…人はこんなに愚かなのだろう。
「戦争。第一次世界大戦、第二次世界大戦。人間同士の殺しあいは続いている。なぜだ?なぜ人が人を殺す?」
僕は震える足を動かした。老人は僕を振り返った。
「わかり、ません…」
僕は鼻声で言った。涙が出てきた。
「きみの真実を、教えてあげよう」
老人はまた歩き出す。足下には無数の「1」が並ぶ。もう踏まないと歩けないぐらい沢山。しかし踏めない。踏めるわけないじゃないか!僕にもわかった。これはただの数字じゃない。いのちの、命の数なんだと…。
「チェルノブイリ原発事故」
老人は言った。僕はただついていく。
「阪神・淡路大震災」
歩くスピードが段々とはやくなる。
「中越大震災」
ぴたりと老人は立ち止まった。
「東日本大震災」
「え」
「これが、きみだ」
僕は声を発したかもしれない。あ、とか、う、とか。目は老人の指さす「1」を食い入るように見ていた。
急速に世界は収縮し、暗闇が僕を包み込んだ。僕は理解した。全てを。