レゾンデートル
「参加希望だ。」
にやりと笑うユーリにラグナスはふっと笑い、懐から出した参加希望用紙を出し、本名、コードネーム、生年月日、電話番号をユーリに書かせた。
「あとこれは、この世界で稼いだ金を入れる預金通帳だ。」
通帳は向こうの世界の物と変わりはなかった。普段通帳を使わないので、ユーリは子供が初めてお年玉を貰ったような気持ちと同じ気持ちが心に広がった。
そして、ニックネームをラルと決めた。白い仮面をラグナスは渡そうとしたが、ユーリは受け取らなかった。
「ルナって随分可愛い名前ね。」
目は仮面でよく見えにくいが、今微笑んだ顔に仮面を付けていなかったら、きっと綺麗なんだなと思った。
「よしルナ!初めての依頼を出してやる!あと、終わったら入ってすぐ右にある赤いボタンを押せ。それで現実世界に帰れる。時間は現実世界と同じだ。降参したい場合もそのボタンを押せ。報酬は1万。ミッションは・・・銃刀なしのサバイバル鬼ごっこ。」
と聞いて、余裕の表情が浮かんだユーリだった。だが、その思いは裏切られた。
「制限時間は10分。鬼の数100人!頑張ってこーい!」
「ふざけるな!100人ってありえねえだろ!何が頑張ってこいだよ!」
「大丈夫!みんなクリアしてっから。ほら早く逃げないとゲームオーバーになるぞ!それじゃあミッションスタート!」
ラグナスのスタートと同時に、カウンターの後ろの壁にある青いボタンを押し、ブザーが鳴った。
賞金ゲームはスタートしたのだ。
急いでユーリは『ラグニクス』を出たが、遠くの方から一斉に駆けてくる100人の足音と土煙が見え、鼓動が耳にまで聞こえてきた。
「まじかよ!!!」
今までに出したことのない早さで走った。後ろを見ずにどこまでも、どこまでも、ただひたすらまっすぐに走った。後ろを見たら、現実世界でなくとも現実を見てしまうと思ったからだ。
「日課をしていただけなのに・・・何でこうなるんだ!!!」
ユーリの叫びは、『ロレンツ』全体に響き渡ったのだった。
━グッバイ俺の平凡な日常。
ユーリは、走りながら満点の星空にさよならをした。
一方『ラグニクス』では、チハヤは現実世界に戻り、カウンターでは、ラグナスがブルー・ハワイを飲んでいた。青い酒をチョイスしたのは、100人のコンピュータから逃げているユーリの瞳の色だからである。ラグナスが見つめているのはワイングラスか、ユーリか、それとも別のことなのか、その瞳を読み取ることは不可能に近かった。
「さあ、これから楽しい毎日の始まりだ。」