ねとげ~たいむ
「今のは…… 防御魔法?」
「コロナさ〜ん、ルナさ〜ん!」
振り向くとそこにいたのは手を振るホイップ君だった。
その後ろではボーリング玉くらいはある真珠を大きく掲げたエミルとショコラさんがいた。
「お待たせ〜、コロナ〜っ!」
「ククク、あのような魔海貝獣など、我が闇の魔力にて木っ端みじんだ」
「偉そうに、弟が貝柱を見つけてくれたから勝てたんじゃない」
「我が半身の力は我の力、ゆえに今回の手柄は我の物に……」
「バカ言ってんじゃないわよ! その貝柱破壊したのはアタシなんだからね!」
「止めを刺したのは我、すなわち今回は我の勝利」
「姉さん、今回は勝ちとか負けとか関係無いよ」
相変わらず苦労人のホイップ君を見て私は苦笑した。
すると怒ったグランドレイクが私達に向かって突進して来た。
「スキル発動!」
空から矢の雨が降り注ぎ、大地に突き刺さると巨大な霜柱となってグランドレイクの行く手を防いだ。
「氷の矢…… って事はセナさん?」
勿論セナさんとセンリがいた。
センリの手に虹色に輝く孔雀の羽根が握られていた。
「お待たせしました〜。虹孔雀の羽根、とってきました〜」
セナさんは私達に向かって叫んだ。
するとセンリが虹孔雀の羽根を見ながら言って来た。
「採取はやっぱりハンターがいた方が有利、でも罠を仕掛けた場所は覚えておくべき」
「反省してま〜す」
セナさんは苦笑する、って言うかまた自分の仕掛けた罠にはまってたのかこの人は……
それでよくランク9まで来れたと思う、ある意味奇跡だ。
「ああっ、遅れた!」
「お姉さま〜っ!」
そしてレミとサリアさん達もやって来た。
サリアさんの手には黄金の光を放つ光草が握られていた。
「私は1本も見つけられなかった。サリアは1発OKだってのに……」
「お姐さま! 私の手柄はお姐さまの手がら、私達は2人で1人の冒険者ですわ!」
「どっかの特撮ヒーローみたいに言うな! って言うか私にそんな趣味は無い!」
レミはサリアさんに向かって眉間に皺を寄せた。
「ちょっとコロナ、アンタHP結構減ってるじゃない」
レミは私のHPが低い事が分かると回復魔法をかけてくれた。
「この蜥蜴風情がぁ! 良くもお姉さまに手傷を…… ギッタギタにしてやりますわ!」
「いや、倒しちゃダメだから!」
私はヒロインが絶対にしてはいけない顔をしながら両手を鳴らすサリアさんに言った。
何はともあれ全員そろった。後はこいつから最後の素材を手に入れるだけだった。
「よっしゃあ! 最後の踏ん張り行くわよ!」
「「「「「「おお―――っ!」」」」」」
レミの号令でみんな士気を高めた。
と言っても皆で寄ってたかってボコしたらあっという間に倒してしまう、こいつも大分HPが減ってる訳だし、いくら相性が悪い属性の武器を使ったとしても危険すぎる。
「古人曰く『七転び八起き』…… 一度ゲームオーバーになってから再プレイするのも1つの手」
「そんなのダサイよ〜、やっぱ1発でクリアの方がカッコイイって!」
「いっそドラゴン回復した方が早いんじゃない? アタシと弟君なら満タンに出来るでしょう」
「敵に塩を送るなど片腹痛い! やはり闇の魔術にて慟哭の涙を流させてくれる」
「お姉さまとお姐さまと一緒に再プレイ…… これほどの喜びはありませんわ」
「私も、みんなと冒険できるならそれでいいです〜」
「僕はどっちでもいいですけど……」
再プレイ派が3、クリア派が3、中立が1…… 正直言って私もどっちでも良いから中立派だった。
「手はあるよ…… コロナが手伝ってくれるならね」
「えっ?」
「正直私も、再プレイは嫌いだから」
そうだった。
お姉ちゃんは面倒くさがり屋のクセに結果に拘る人間だと言う事を思い出した。
でもどんな手があるのか分からなかった。
「そう言う訳だからこれ使って」
お姉ちゃんは私にバーニング・ハンマーを手渡した。
代わりにお姉ちゃんはプラチナ・シールドを装備した。
「お姉さん、武器装備しなきゃ」
「ああ、良いの良いの、攻撃するだけが攻撃じゃないのよ」
「あ、そうか!」
私は理解した。
戦士だからこそ出来る技があった。
私がバーニング・ハンマーを装備し直すのを確認するとお姉ちゃんが言って来た。
「行くよコロナ、姉妹パワーを見せてやるわよ!」
「分かった」
お姉ちゃんは走りだした。
『グオオオ―――ッ!』
グランドレイクも走り出した。
1人と1匹の間合いが詰まると私は大きくバーニング・ハンマーを振るった。
「地爆衝っ!」
私はさっきお姉ちゃんが使ったのと同じ技を選択した。
だけど今回は狙う場所が違った。地割れの先にいたのはお姉ちゃんだったからだ。
お姉ちゃんの足元が轟音を立てながら大爆発、宙に浮かんだ土塊を足蹴に飛び交うとグランドレイクの背中に乗りかかった。
『グオオオっ!』
グランドレイクはお姉ちゃんを振り払おうと暴れ出した。
しかしこうしてしまえば後は逆鱗の場所を叩くだけだった。
お姉ちゃんは技コマンドを選択し、最後の攻撃を放った。
「盾アタック!」
お姉ちゃんは渾身の力で逆鱗を殴りつけた。
別に盾だからって攻撃できない訳じゃない、でもこの技は正確に言うと攻撃技じゃ無かった。
本来は敵が攻撃して来た時にこの技を使うと相手を突き飛ばして攻撃を中断させる事ができる。
しかし攻撃じゃないからダメージが与えられない為に私も使おうとは思わなかった。
『ギャアアアアッ!』
グランドレイクは大きく身を仰け反らせると下目蓋に涙が溢れ、大粒の涙が飛び散った。
どんなに低い攻撃でも痛い物は痛い、人間だって脛や足の小指をぶつければメチャクチャ痛い。
グランドレイクは私達に背を向けると一目散に去って行った。
「やったね、お姉ちゃん」
私はお姉ちゃんに近付く。
お姉ちゃんは道具コマンドを開くと最後の項目に『グランドレイクの涙』が表示されていた。
これでクエスト終了だった。
ちなみに集めたアイテムは自動的にギルドに送られた。