ねとげ~たいむ
皆忙しそうだった。
私達の場合は目的の場合はただモンスターが多いだけだったから何の問題は無かった。
私達は一足先に最後の素材を取りに最終ステージへやって来た。
「グランドレイクの涙」
街から西にある山岳地帯にはグランドレイクと言うドラゴンが生息しており、そのドラゴンの涙を採取する事が今回のクエストの最後の目的だった。
グランドレイク自体はそんなに強く無い、問題はどうやって泣かすかだった。
「単純に攻撃し続ければ良いって訳でも無いんだよね」
一応説明書きが書かれている。
グランドレイクに涙を流させるには背中にある逆鱗を攻撃する事だった。しかしその逆鱗は背中の一か所だけだった。
実は以前グランドレイクとは戦った事があった。
それは海賊船の一件以降、属性の武器も揃える必要がある事が分かった私は自分自身で素材を集めに出かけた。
本当は皆にも手伝って貰おうかとおもったのだけど、私1人の為に皆を巻きこむのも悪いと思い1人でクエスト『大地を揺るがす大足』を受けた。
モンスター自身はそんなに強く無かった。まして水属性を持った私にとって凄く楽勝だった。
でも今回は倒してはいけないらしい、倒した場合はクエスト失敗、またはじめからやり直しだった。
「多分大丈夫でしょう、今回はランクも上がってるし、モンスターも強くなってるはずだから、そう簡単にはやられないはずよ」
「だと良いけど……」
正直不安だった。
そりゃ倒せって言うなら私とお姉ちゃんなら楽勝だ。
でも倒さないのは倒すより難しい、ましてレベルが高くなっている今なら尚更だ。エミルなら『絶対ぶっ倒す!』って面倒がるだろうな……
そんな事を考えながら私達は山道を歩いて行った。
おあつらえ向きに私達の前に問題のモンスターが現れた。
『グランドレイク』
モンスターの名前が表示される。
翼の無いこげ茶色の鱗の肌、3本指に逆関節の両足、3本の鋭い爪が生えた腕、バランスを取っている太い尻尾、頭には2本の角の生えた鬼灯色の爬虫類特有の目が2つ、私達を見下ろしていた。
「さてと、皆が来るまでにかたずけよう」
「うん!」
私とお姉ちゃんは武器をセレクトする。
このグランドレイクは土属性、つまり水属性と炎属性は相性が悪い、思わず大ダメージを与えてしまわないように土属性にあまりダメージを与えられない武器をセレクトした。
大きな片刃に稲妻の紋章が入った片手斧の『サンダー・アックス』を私は手に取った。
それはお姉ちゃんも同じ考えらしく、手に取ったのは青白く輝く刀身、その中央に書かれたルーン文字、鍔に氷の紋章が取り付けられた氷属性の武器、私のファイア・ソードとは正反対の武器『アイス・ソード』だった。
『グオオオオっ!』
グランドレイクは大きく口を開いて紅蓮の炎を吐き出した。
私達は左右に飛んでブレスを回避、体制を立て直して跳びかかった。
「はああっ!」
「たああっ!」
私達は通常攻撃を放って様子を見る。
『ギャアアッ!』
ダメージはあまり無いみたいだけどやっぱり攻撃力は上がっていた。
そりゃあと1発2発って訳じゃないけど、あまり攻撃を与えられない、ゲーム・オーバーだ。まして技を使うのは問題外だ。
せめてセンリの魔法かセナさんのトラップみたいに動きを止めて逆鱗の場所を確認出来れば良いんだけど……
一方グランドレイクは攻撃し放題だった。
こいつの攻撃は単調すぎる、火炎攻撃を除けば尻尾で薙ぎ払うか体当たりしか無い、避けるのは簡単だった。
だけどそのままじゃいつまで経ってもクリアできないのは事実だった。
「コロナ、私達出やってみよう!」
「お姉ちゃん、できるの?」
私は尋ねる。
どんな育て方をしてるのか知らないけどお姉ちゃんも戦士だ。基本攻撃技しかない戦士に何ができるのか分からなかった。
もしかして動きを封じるスキルでも持ってるのかと思われたが、私の予想は大きく外れた。
お姉ちゃんは武器コマンドを選択すると巨大な金鎚を取り出した。
両手持ちで長い柄の先端に燃え盛る炎の様な彫刻が取り付けられ、左右に巨大な鎚が生えた様なデザインの『バーニング・ハンマー』だった。
「地爆衝っ!」
両手で構えたバーニング・ハンマーが赤く輝くとそれを一気に上段に構えて振り下ろした。
真っ赤に燃えるハンマーが地面に叩きつけられるとその衝撃が地面を走ってグランドレイクに向かって行った。
この技はアース・クエイクに似てるけど少し違う、あれはダメージ+麻痺だけど、今回のはダメージ+拘束だった。
グランドレイクの足元の地面が爆発を起こし、グランドレイクは下半身が地面に埋まって動けなくなった。
「今よ、逆鱗の場所をチェックして!」
「分かった!」
私はグランドレイクの背後に回る、すると一か所、こげ茶色の鱗の中に金色に輝いている鱗を発見した。これが逆鱗だった。
ちなみに逆鱗と言うのは、龍(ドラゴン)の81枚ある鱗の内たった1枚だけが生まれつき逆向きで生えている鱗の事である。
本当は顎の下にあると言われていて、基本的に人を襲う事は無い龍でもそれに触れられれば激怒すると言われている、ことわざにある『逆鱗に触れる』とはそう言う意味だ。ウチのパーティには似たような人がいるからなぁ……
「あった!」
私はサンダー・アックスを向ける。
そして逆鱗目がけて跳びあがった。
「たあああっ!」
私はサンダー・アックスを振り下ろした。
だけどグランドレイクの方が早かった。
両手を大地に押しつけて置き上がると穴からはいずり出て別の場所を攻撃してしまった。
『ギャアアアッ!』
グランドレイクに余計なダメージを与えてしまった。
「くっ!」
私は着地して振りかえる。
隣にお姉ちゃんもやって来て体制を立て直した。
「タイミングがずれたわね」
「ごめん、少し遅すぎた」
「いや、確認できただけでも上出来上出来!」
お姉ちゃんは言って来た。
だけどまさかこうしてお姉ちゃんと戦えるなんて思ってもみなかった。
このゲームを初めて早4ヶ月、一度もお姉ちゃんと冒険した事が無い、私が始めた時にすでにお姉ちゃんはランク3だったから永久に出来ないかと思っていた。
ランクが追いついたのは多分お姉ちゃんがプレイをサボってたからだ。だとしたら良く仲間の人達は付き合えたモンだと思う、何しろこの人は前世がナマケモノかコアラじゃないかと思うくらいだからだ。
だけどそのおかげで一緒に遊べるようになったのは嬉しかった。こうしてゲームするのは中学1年の時以来だった。
勿論ネトゲーじゃ無くて家庭用ゲーム機だけど。
『グオオオオっ!』
グランドレイクは大きく咆えながら突進して来た。
「まずい!」
今のお姉ちゃんは盾を装備してない、つまり防御力は半減している。
私はすかさず防御してガード・スキルを使った。
「スキル発動!」
お姉ちゃんの代わりにグランドレイクの攻撃を受けて私は吹っ飛んだ。
「くっ!」
「コロナっ!」
私は地面に転がる。
さらにグランドレイクは私に向かって炎を吹き出した。
紅蓮の炎が私に迫った時だった。
「リフレクト!」