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ねとげ~たいむ

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 案の定雲の中に入ると画面が変わった。
 そして不気味な霧の中に1つの影が浮かんだ。
 影はやがてはっきりと姿を現し、私達の船の何倍もある巨大な船体に両舷に大砲が幾つも並んだ木造船が現れた。
 さらに大小いくつもあるマストには全て魚の頭骸骨にサーベルが2つ交差したマークが描かれていた。
 この船はまさに海賊船だった。
「これどうするの?」
「私に聞かないでよ」
 レミは眉間に皺を寄せる。
 確かにこの後どうすれば良いか分からなかった。
 そう思っていると突然方向転換した海賊船から砲撃が放たれた。
 無数の砲撃が私達の船を襲った。
「きゃあああっ!」
 船が大きく揺れる。
 砲撃が止むとレミが目を吊り上げながら言って来た。
「……上等だわ! こっちも反撃準備よ!」
「こっちは大砲なんて無いよ」
 私達の船は戦闘用じゃ無い、こちらは反撃する術がなかった。
 するとエミルは悔しがりながら言って来た。
「くやし〜っ! 攻撃できるならぶっ飛ばしてやるのに〜っ!」
「手ならある」
「えっ、ホント?」
 するとセンリが指を差した。
 海賊船の甲板には複数の小さい人影があった。
「あれって……誰かいる?」
「戦う手段が無い以上、今できるのは移動だけ」
「ОKОK! ギッタンギッタンにしてやるんだから!」
 エミルは笑いながら両手の拳を合わせた。
 センリは艫の方に回ると舵を手に取った。 
「古人曰く『虎穴に入らずんば虎子を得ず』!」
 船の針路が敵船に向かう。
 だが再び相手の船から砲撃が放たれた。
 一応私達の船にもライフがあり、これが無くなればクエストは失敗だった。
 センリの言う通りなら本格的な戦闘は相手の船に乗ってからになる、だけど敵船にたどり着くまでにこの船をプレイヤーが砲弾を交わしながら動かさなければならない。
 砲弾が船にヒットすると船体は大きく揺れてゲージが減り、外れた大砲は海面に落ちて爆発して水しぶきを上げて頭上から雨の様に海水が降り注いだ。
 ゆっくりとは進んでいるが、なるべく砲弾を交わさなければならないので船は中々近付けなかった。
「時間かかるね、一気に進めないのかな?」 
「だったら叩き落とす!」
 エミルは装備を変えた。
 両先端に龍の頭を模して大きく開いた口に青い水晶が嵌ったデザインの金具が取り付けられた黒い棒状の武器、『ドラゴン・バトン』だった。
「必殺! エミル・スイングっ!」
 エミルはゾンビの館で使った返し技を使う。
 大砲の弾をバッティングセンターのボールの様に打ち出すと海の中に沈めた。
 確かにこれで少しでも船のダメージを抑える事が出来る。
「なるほど、私もやるわ」
「私も!」
 レミはそのままだけど私も装備を変更する。
 私が持ってる鈍器系の武器はセナさんの時手に入れたメタル・スパイクだけだった。こんな物でも無いよりはマシだった。
「おらあああっ!」
「えいっ!」
 私達は思い切りメタル・スパイクを振りまわした。 
 砲弾は見事遠くの方に落ちた。一応砲弾を跳ね返すには技は使わなくても良いらしい、FPがもったいないので普通に叩き落とす事にした。
「2人供上手いじゃん」
「阪神ファンなら当然や! 大阪のど根性みせたる!」
 レミの口調が大阪弁に戻っていた。
 って言うかレミ野球好きなんだ。初めて知った。
「エミル上手だね、野球やってたの?」
「ああ、アタシはソフト部だから……ライトだけどレギュラーなんだよ」
「へぇ、凄い」
 私は正直に感心する。
 エミルは今年中学入ったばかりなのにレギュラーになるなんて結構凄かった。
「いや〜……去年3年が卒業しちゃって、入ったら即レギュラーになっちゃってさ」 
 エミルは左手で後頭部を掻いた。
 エミルの中学は部活動が強制入部らしく、エミル本人はどこでも良かった為にアミダで決めたらしい。
「コロナは部活入って無いの?」
「あ、うん、私の所は部活自由だから……」
 中学時代は文芸部だった。
 だけど大した活動すらしてなかった。毎日毎日本を読んで感想文を書くだけの生活だった。
「何か暗いなぁ〜、思い切り体動かした方が良かったんじゃない?」
「私運動音痴だから……でも文芸部も結構楽しかったよ、友達も結構いたし」
 みんなどうしてるかなぁ?
 一応何人かは私の高校に通ってるけど……
「そう言えば1人だけ転校しちゃった子がいたなぁ……元々お父さんの仕事の都合で1つの場所にいられなかったみたいだけど……その子作家になるのが夢だって言ってた」
「へぇ、凄いじゃない、コロナも何か書いてみたら?」
「だ、ダメだよ! 私なんて小学生の作文だってマトモに書いた事無いし……そう言うレミは何してるの?」
「わ、私?」
 レミの声が裏返った。
 レミとセンリは大学生だから部活では無くサークルだろう、違いが分からないけど……
「大した活動じゃないわよ、殆どあんまり人いないんだし……」
「どこよ?」
「……家庭科研究会」
「ぶふっ! 似合わな〜っ」
「うるさいっ!」
 エミルが噴き出すとレミは目を吊り上げた。
 結構家庭的なんだな……
「センリは何かやって無いの?」
「……私はサークル入って無い、その代わりバイトしてる」
 センリは京都から東京の大学に出て来てからずっとアルバイトをしてるらしい……
 と言うかセンリのプレイヤーってどんな人だろう、とりあえず『センリ』と言うキャラが様々なバイトをしている姿を思い浮かべるが、とてもじゃないが想像できなかった。
作品名:ねとげ~たいむ 作家名:kazuyuki