ねとげ~たいむ
エピローグ
ゲームを初めてから数ヶ月。
最初はお姉ちゃんに進められてやった事だけど、今じゃすっかりこのゲームにはまってしまった。
今じゃパソコンは買い物や調べ物なんかよりゲームをプレイする事の方が多くなっていた。
子供の頃はよくお姉ちゃんとしてたし、一緒に友達と遊ぶ事もあった。
あの頃は本当に楽しかった。時が経つのを忘れてずっと遊んでいた。まるであの日の気持ちが蘇った気分だった。
あれから私達は街に帰った。
城門を潜ると鼓膜が痺れる程の声援が木霊した。
老若男女全ての人達が私達に手を振り、建物の2階から身を乗り出している人達が沢山いた。
その中には今までお世話になって来た錬金所の小父さんや道具屋の小母さんや武具屋の双子のマッチョ兄弟もいた。
どうやらこれはビギナー・ランクのエンディングらしい、オープニングもそうだったし、強制的に始まる物らしい。
キーボードを押して無いけど私達のアバターはパレードの真ん中を歩いて行った。向かっている先はパラディス城だった。
画面が切り替わると私達はいつの間にか玉座の間へやって来た。
玉座にはクラウド8世が座っていて、私達を出迎えてくれた。
『よくぞやってくれた。そなた達は期待以上に活躍してくれた。国民を代表して礼を言おう』
クラウドは言った。
すると毎度の事ながらエミルが言い返した。
「つーかさ、この国がポンコツなだけじゃないの? この国の兵士どんだけ弱いの?」
「古人曰く『無用の長物』…… ただの税金の無駄遣い」
センリも手厳しい事を言った。
確か20超えてるみたいだし、税金払わなきゃいけないからそこの所は考えなきゃいけないんだろう。
この国に兵士何人いるか分からない、でも軍隊送って討伐出来なかったモンスターを私達4人が倒したのだから、私達は軍隊より強い事になる。
それどころかソロプレイしているのだから1人でトルニトスを倒した人はとんだ怪物って事になる、最早この国潰して王様になった方が良いんじゃないかと思ってしまった。
『今までの功績と今回の働きを認め、諸君等をエキスパート・ランクに任命する、これからもパラディスの為に働いて貰いたい…… その為に諸君等に素敵な贈り物を用意した。受け取ってくれたまえ』
そう言うと私達の前に宝箱が4つ現れた。
宝箱が開くと中身が私の道具コマンドにプラスされた。
街へ帰って来た私達はプレイヤーズ・バーで話し合った。
エミルは道具コマンドを開いた。
貰ったのは大回復薬30個、ミドル・ポ―ション20個、精力剤6個など店で売ってる回復薬。
竜の生き血5個、超鋼鉄5個、バーン・リキッド7つなどの錬金素材。
道具屋、および武具屋等で使える割引券20枚だった。
正直どれも珍しくない物ばかりだった。
ただ錬金素材は嬉しかった。集めるのに手間が省けるからだ。
「ま、良いんじゃない? 私は正直気大して無かったけどね」
「私も……」
センリも頷いた。
私は現実世界で時計を確認する。
もうすぐ0時を回ろうとしていた。
「さてと、そろそろあがりましょうか」
「ええっ、もう少しやろうよ〜、明日日曜なんだし〜」
「アンタはそうかもしれないけど、アタシとセンリは違うのよ」
レミは言った。
2人供明日は用事があるらしい。
レミは家族と出かけ、センリはバイトが入ったと言う。
「じゃあさ、せめてあそこに行こうよ」
「あそこ?」
私は首を傾げた。
やって来たのはギルド内のとある転職所だった。
そこはカトリック教会の作りになっていて、
床にはパラディスの紋章が描かれた金の縁の青い絨毯が敷かれ、1番奥には祭壇があった。
その祭壇の手前には白い生地に黄金の裾の祭服に身を包み、頭にも白くて金の縁取りで長方形の司教冠を被った金髪の中年の男が立っていた。彼はこの転職所の司祭だった。
すっかり忘れていたのだけど、私達のレベルは20になっていた。
このゲームではレベル20になればクラスチェンジが出来る、折角ランクアップもした事だし職業も心機一転、新たな自分に生まれ変わる事も悪くないと思った。
司祭は先端が金のサークルとなり、その中に赤い宝珠の埋め込まれた金の柄の錫杖を振るって呪文を唱えた。
『神よ、この者達に新たな道を開かせたまえ!』
司祭が錫杖を高々と掲げると私達の体が眩い光を放った。
やがて光が晴れると見た目と装備はそのままだけど、ステータスの数値がグンと上がり、職業欄も変わっていた。
私:『戦士』→『騎士』
エミル:『武闘家』→『格闘士』
レミ:『僧侶』→『神官』
センリ『魔道士』→『魔術師』
「アタシ、パワーアップ!」
「ありがたく、襲名させていただきやす」
「古人曰く、『愚公山を移す』」
皆クラスチェンジして喜んだ。
それは勿論私もだ。
ちなみにセンリの言葉は最後まで諦めずに付き進めば必ず物事は成し遂げられると言う意味の言葉だ。
でもそれは的を得た言葉だと思う、私も諦めなかったからこそここまで来れた。
エキスパート・クラスになったのは私だけの力じゃ無い、皆の助けがあったからだ。
無茶苦茶なネーミングセンスの上に我がままし放題だけど、元気いっぱいで一緒に戦ってくれるアタッカーのエミル。
怒ると恐いけど本当のお姉さんみたいに皆を励まして引っ張って助けてくれるヒーラーのレミ。
普段はあまり喋らず、喋ったとしてもことわざや格言で遠まわしに言ってくるけど皆の頭脳となってくれるサポーターのセンリ。
この3人の他にもショコラさん&ホイップ君、セナさん、サリアさん、レイさん…… そしてゲームに誘ってくれたお姉ちゃんも私の大事な仲間だ。
私達は力を合わせたからこそ頑張ったからここまで来れた。
エキスパート・クラスがどんな所かは分からない、でも皆がいれば乗り越えられる、私はそう思った。
(本当の冒険はこれからだ。そして皆は私が守る)
私はそう心に決めた。