曲物語
まぁ、たしかにそういう風潮は見られる。ダークファンタジー、ラブコメ系はもちろん王道バトルや古式ゆかしい4コマ漫画にまでその煽りが来ている事が確認されている。
「そうですねー、プリキュアとまどマギなんてモロですよね。」
煙草にようやく火をつけながら返答する。
「いや、日曜の朝からテレ朝で人死には起きねぇから!MBSは深夜にドツクゾーンと素手でバトルしてグリーフシードとかドロップしねぇから!」
「ですよねー世の中甘くないですね。」
「「あははははは!」」
閑話休題。
「ええと、サブカルチャーについてでしたね。」
仕切りなおした。煙草の灰を落としながら。
「まぁ要はあれだ、プリキュアとまどマギは違うけどドラえもんとキテレツ大百科みたいな。」
き、キテレツ大百科だと…。そんな化石と化した番組名をこんなところで聞くことになるとは思わなかった。(日本語がおかしいのは重々承知だがあえて使いたいのでこのままよ訂正はしないこととする。)
「キテレツ=のび太君、みよちゃん=しずかちゃん、ブタゴリラ=ジャイアンみたいな感じですかね。」
「そうだな。」
「それにしてもジャイアンってエロいですよねー。」
「え?なんでだよ。別にエロくないだろ。あのガキ。」
ジャイアンをガキ呼ばわりする辺りはさすがだ。しかしここで負けるわけにはいかないっ!
「ジャイアンは何かにつけて『じゃ、慰安』ですよ。」
「お前は俺の後輩か!」
いや違うけど、違いますけど。って言うか先輩ですけど。
「なんか台詞を盗られたような気がします。台詞泥棒は重罪ですよ。」
タイホです。と僕。
「それについては反省している。しかし大体お前が某府知事的な発言をしたことに端を発しているぞ。」
煙草を僕に向け傷んだ赤色ポーズのブラック氏。
「日本に府は2つしかないので2分の1の確率ですね。」
「お前が京都府知事になれば10割だよ。」
「僕は権力に興味はないんですけど。」
「日本全国にジャイアンを広めたら良いだろ。」
そんなどっかのエロゲーの設定みたいな国で生活するのは嫌だな、と思いつつ、
「まぁ慰安に関して言えば倫理的な問題が大きいですからね。その当時本当に必要だったにしても体裁を保つために、絶対にダメだとかって言わないといけなかったんじゃないですかね。」
ちょっとまじめぶってみた。煙草吸いながらだけど。
「その流れで行くとイアン・ソープとか最低だな。『慰安』で『ソープ』だろ。もうフォローの仕様がないな。」
僕は悪い奴なので「何言ってんですか」みたいな目でブラック先輩を見る。
「あれですね。もう病気かもしれないですね。」
「あぁ、神原クリニックを受診するしかない。」
以降お医者さんごっこが始まります。
「次の方どうぞ。」
「失礼、病みました。」
「え?わざとでしょう?」
「失礼、病みまみた!」
「わざとじゃない!」
「闇増した」
「痛々しい!」
…
時計を確認すると6時50分。そろそろ行かないと。
「さ、与太話で気合も入ったし働くか。」
「おいっす、じゃ、またあとで。」
朝の雑談が終わった。ここからは各々、朝の戦争に向かうのだった。
朝の戦争と言うのは他でもない。起床介助のことである。と言うよりも、それを含めた食事、排泄、水分摂取、臥床、離床等の一連の流れだ。ずらっと並べるとすぐ終わりそうな気がするが実際は超大変なんだぜ。って言っても人間食べないと死んじゃうし、ある程度は食べてもらわないと困るんだけど、それにしても自分で食べてくれない人が多すぎて困る。(僕は効率とお食事の際のマナーのバランスを保ちつつ食べて頂いている。中には食事を混ぜて提供する職員もいるようだが僕は基本食事は混ぜたりしない。)食事を勧めつつ食事風景を観察しなければならないのはなかなか厳しいものがあるが評価対象らしいので頑張るしかない。上司の方々はあまり観察してくれないからなぁ。僕だけでもしっかりやらないと。お年寄りの食事風景を観察するのは実は面白い。フラットで皿に盛り付けられてくる食事をお年寄りたちが食べやすいようにして提供する訳だけど、自分が盛り付けた食事をどう食べているか、むせ込んだりしていないか、食べこぼしの様子などをつぶさに観察し記録しておかなければならない。しかも自分で食べられない人に食べさせながらだ。これが意外と難しく慣れるのにはそれなりの時間がかかった。余談だが、食事を口に運んだからと言って素直に開口してくれる人ばかりではない。食事を本気で拒否することもあるので注意が必要だ。何とか機嫌をとり食べてもらうしかない。
食事が終わると服薬である。お年寄りと言うのはとにかく薬が多い。朝食摂って服薬。昼食摂って服薬。夕食摂って服薬。寝る前に服薬。連中は薬で生きてるんじゃないかとさえ思う。いいんだ、問題がなければ。ある程度快適なら。不都合がなければ。(こう書くとそれではダメな気がしてくるから不思議だ)
僕も一応社会人なので時間はできるだけ無駄にしたくない。