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にゃかじゃわ
にゃかじゃわ
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曲物語

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僕は階段を昇る。
階段60段を一段飛ばしで駆け上がる。今日から始まるフリーダム空間へとひたすら階段を昇る。1月16日、この日は僕にとっての本当の仕事の始まり。冗談のような戦場。悪夢のような激務を乗り越えた曲者、忍足一三の物語である。


 夏も終わりに差し掛かる朝、聞きたくもないアラーム音がする。いつの時代も朝は気だるく、目覚まし時計の音はうるさい。仕事に行きたいと心から思う朝など永久に来ないだろうな、と僕は思いながら布団から起き上がる。時計を見て出勤時間までに余裕があることを確認する。とりあえず立ち上がったその場で着替え始めた。今日は七分袖のシャツにグレーのパーカー、カーキのカーゴパンツのようだ。着るものにあまり頓着しない僕は前日の夜に服を出しておくものの、選ぶようなことはしない。服に対しては平等な僕なのだ。

 別に朝から甲斐甲斐しく起こしてくれるような妹もいなければ、けたたましい清掃音を響かせながらそのついでとばかりに起こしてくれるお掃除ロボットを所有しているわけでもない。朝は自力だ。いまだ早番で遅刻したことがないのがちょっと誇らしい。(他のシフトで遅刻したことがあるので大層なことは言えないが)AM5:17分、まあこんなもんだろう。
 キッチンへ向かうと納豆をこね、インスタントのあさりの味噌汁を作り朝食とすると家を出る。寝癖は直さない。僕の髪は直そうとして直る物ではないのでずいぶん前から寝癖を梳かすのは諦めた。まぁ自転車に乗っていれば寝癖はなくなるだろうから気にする必要はない。歯を磨き顔を洗う。寝癖は直さない。戸締りをして、と。


 どこかの鬼畜なお兄ちゃんは家を出るのに80ページかかるらしいけど僕のはこんなもんだ。朝からセンスのいい会話をするような体力や思考力は持ち合わせていない。歳だろうか。ともあれ行ってきまーす。みんな寝ているAM5:40分。
 先ほども述べたが僕は自転車通勤をしている。センスのいい会話をするような体力はないが自転車通勤する体力はあるのだ。自転車、結構楽しいんだぜ。家と職場は7キロほど離れているので(しかもアップダウンが激しい)なかなかいい運動だ。一年続けて8キロほど体重が落ちた。最近新調したクロスバイクの鍵を取り出し出発。昨年はママチャリを使っていたがなんとなく嫌気が差してきたのだった。だって疲れるんだもん、ペダル重いし。さて、イヤホンをセットして、と。良い子は自転車に乗りながら音楽を聴かないようにしてくれよ。田舎道だから許されるんだからね。本日最初のナンバーは斉藤和義の『やさしくなりたい』だった。



 多分オープニング曲の間に通勤するのがアニメ化するにあたって適当なタイミングだと思うのでこうしてみた。別に僕の通勤風景を描写したところで面白くもなんともないだろう。文章から風を感じることはできないのだ。まぁ通勤中に起こったことの中で強いて言えば、よく利用していた駄菓子屋がなくなっていただとか、煙草を持ってくるのを忘れたからコンビニに寄って行っただとか、そんなものだ。
 カッコいいオープニング曲の間に会社に到着すると意識が変わる。それから僕は戦争をするのだ。強くなりたい、やさしくなりたい。
 戦争には準備が必要だ。支給のポロシャツに袖を通す。昨夜、夜勤が洗濯してくれたものだ。時々湿っていることがあり、ちゃんと乾燥機にかけたのか疑問に思うことがあるけれど気にせず着る。着ていれば乾くし。チノパンも同様に履くがここで忘れてはならないのがポーチを付けることである。腰にポーチがないと介護用品をしまうところがなく、ボールペンも即座に取り出せないのだ。ポーチ重要だ。着替えると担当フロアに向かう。途中事務所を通ることになるので適当に挨拶しておこう。社会人としての常識だ。と言っても今日は早番なので事務所の職員はまだ出勤していない。警備員さんがいるだけだ。
「おはようございます。」
至極まっとうな挨拶をする僕。
「おはよう!今日早番か?がんばれよー。」
「はい、ありがとうございます。」
なかなか話せる警備員さんなのだ。その名を上坂さんという。
 整備員さんとの挨拶を終えると黒いリュックが事務所前のカウンターに置いてあることに気がつく。まだ時間も早いし一服してから向かうとしよう。

「よう。」
年齢の割にやたら渋い声に振り返ると、長身痩躯、袖が延びたインナーに煙草『ラーク』の12㎎を吸いながら短い挨拶をしてくる白川さん、自称残念な先輩の姿があった。この白川さんは、『お痛をする奴は容赦なくシバく』を信条とし、そのアグレッシブな言動・行動からブラック白川と呼ぶ者までいるようだ。(僕だけど)
極めつけは、「名前は白いのにあだ名は黒いのがミソ」であることらしい。
ブラック先輩本人はそれを気に入っている様子なので僕はそれ以上言及はしないことにしている。そしてこのブラック先輩はここぞという時の決め台詞を有しており自立支援を建前とする『なんでもはしないよ。出来ないことだけ』である。この場合の『何でもはしないよ。できないことだけ』と言うのは現在の介護業界の方針と非常にマッチしているもので一般に浸透している内容は、ADLが低下しすべてを自分でできなくてもせめて自分でできることはやってもらおうという方針である。中にはめんどくさがりの利用者もいるのでなかなかうまくいっていないのが実情だがそういった方針は施設運営であれ在宅介護であれ個人の権利を尊重すると言う点において重要なポイントであるらしい。(僕はまだ一年目なのであまりよく分からない。ほとんど受け売りである。)

「どうだ?最近は。」
タバコを吸いながら早朝の雑談が始まる。
「何とかやってます。たぶん。」
タバコになかなか火を点けずに口にくわえたまましばらく喋るのが僕の癖だ。
「たぶんてなんだよ。」
「自分の近況って実は意外と自分では正確に把握できないところあると思いません?」
「お前結構嫌なやつだよな。」
「嫌われ者の会話ですよ。」
僕たちの会話には小ネタや言葉遊び、小芝居がつきものだ。取り付かれてると言っていいかもしれない。言い直そう。小ネタや言葉遊び、小芝居が憑き物だ。こんな会話に年上の先輩をつき合わせてしまって大変申し訳ないとは思うのだがなかなかどうして辞められない。辞められないとまらない。さしずめかっぱえびせんのようだ。
「俺との会話をティータイムみたいに言うなよ」
「放課後ティータイム」
「軽音部に怒られるぞ」
「放火後ティータイム」
「社会的に抹殺されるぞ」
「カラオケフリータイム」
「全然関係ないけど楽しそうな響き!」
まったく中身のない話で盛り上がっている成人男性二人の姿がそこにはあった。と言うか僕たちだった。

ここでかのブラック氏が唐突に口を開く。
「なぁ、サブカルチャーについて語ろうぜ、一三。」
開口一番、日本のサブカルチャーだと範囲が広すぎて何について話せばいのかわからない。
「と、いいますと?」
「いや、最近似たようなキャラ設定で内容も似たような感じのゲームだのアニメだのラノベだのが増えてきていると思わねーか?」
作品名:曲物語 作家名:にゃかじゃわ