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引きとめられた夜(改題)

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引きとめられた夜




 都心からは少し離れたその駅のタクシー乗り場から、その女性は乗車した。時刻は土曜日の午前一時頃だっただろうか。暗いということと、視力が落ちているために、私は彼女の顔を認識することはできなかった。そして、乗車した瞬間に思ったことは、男じゃなくて良かった、ということだった。ひと月前、その乗り場から五キロ程離れた繁華街の外れで、私は恐ろしい乗客を乗せてしまったからである。



「じゃあ、明日、よろしくお願いします」
 その瞬間は快活な青年という印象だった。道路際に立っていたふたりの男のうちの一人が乗車した。パチンコ屋の前だったが、時刻は零時半だった。
 目的地への選ぶべき道を、私は即座に思い浮かべることができなかった。
「済みません。この辺は住宅地に入ると道が狭いし、殆ど直進できる道がないんですよね。申し訳ないんですが、道案内をお願いします」
「判らねえのかよ。何年タクシーやってるんだ」
「七年ちょっとですが、この辺は難しいところですね」
「地理試験は何回目で通ったんだ?」
「二回目でした。運良く二回目が易しい問題ばかりだったんです」
「ここ左折!」
 私は急ブレーキで減速し、何とか左折することができた。暗い道に入った。
「済みません。大丈夫でしたか?」
「バカ野郎!俺が若いと思ってるだろう」
「そうですね。私よりは随分お若いでしょうね」
「若いからって、舐めんじゃねえ!」
「そんなつもりはないんですが」
「ここ右!」