タマシイの欠片。
「あなた、だれ……」
彼女の、たゆたう黒い髪をすくい上げて、頬を寄せた。
かろうじて残っている眼の奥を覗き込んで微笑む。
「死神だよ」
絶望が染み込んだ彼女の全てが霧散し、俺の手のひらには、ビーズ製の赤いクマのチャームが残された。
「へえ、彼女の『執着』はこれか」
鼻に近づけると、彼女の甘い香りがした。
「意外と楽しかったから、もうちょっと続けたかったんだけどなー、片思いごっこ」
欲しいものが手に入ったとはいえ、多少残念なことは否めない。
彼女があの時、チョコレートをくれなければ、もう少し楽しめたのに。
死者から差し出された物は、それは、どんな物であれ『タマシイの欠片』だ。
死神がそれを受け取れば、契約とみなされる。
(ま、そのルール知ってんの、俺らだけだけどねー)
ビーズのクマは、愛くるしい顔で俺を見つめている。
「美味しかったなあ、チョコレート」
俺は、ビーズのクマを両手で包みこみ、ぐっと握り潰した。
途端、甘い甘い香りが白い世界に広がり、指の隙間から金色の光が漏れた。
「お。やっぱ大当り。すごい綺麗だなあ。俺、見る目あるなあ。あいつに自慢してやろう」
金色の光を、ズボンのポケットに無造作に突っ込んで、俺はひらりと身をひるがえした。
でも、偶然手に入れた上等な魂をあいつに自慢する前に、制服姿の俺を「コスプレか」と鼻で笑いやがったから、全力でその喧嘩を買ってやって、だから結局見せびらかすことは出来なかった。
せっかくいい気分だったのに、腹立つ…!
To Be Continued…