破滅姫のコイゴコロ。
2.
「相変わらずいい趣味してんね、お前」
「面白いよ?権力ある大人達が僕を取り合って真剣にケンカしてくれるなんてさ。超楽しい」
「ヒマつぶしかよ…」
死神課専用のカフェテリアで、同期の斎藤は呆れたように息をついた。
「ヒマつぶすためにわざわざ下に降りなくてもいいだろ」
「だって、天使と悪魔ってフツーは相反するもんじゃん。なのに超仲いいじゃん。意味わかんないじゃん」
「あっちは、それぞれの部からひとりづつペアになって動くわけだし、常にもめてたら仕事が滞るだろーが」
「もめてる様を上から眺めんのが面白いんだよ。君だってそうだろ?」
「俺はそんな悪趣味じゃありませんー」
濡れたような漆黒の前髪の間から、同色の瞳がちらりと僕を見る。形の良い唇にいたずらっぽい笑みを浮かばせた。
「もめさせて、モテたかったの?天使課の部長って言ったら、社内の支持率トップ3だよね。贅沢だなあ、お前」
「けど簡単だったし。ああいう、ぽやぽやっとした鈍感なタイプは、ハッキリわかりやすく押せばあっさり落ちる」
「お前だから、簡単だったんだろ。うちのお姫様は向かうところ敵なしだからなあ」
「だって君は僕のこと、別に関心ないくせに」
「ないってなんでよ。俺、お前のこと、ものすごく大事にしてるけど。良く気のつく素敵な同期。ね」
言って斎藤は、ハタと目を見開いた。
「え?待って待って。まさかあてつけ?俺に?」
驚いたように顔をのぞき込むから、その頬を手のひらでぐいと押しのけた。
「うざい」
「死神課きってのツンデレお姫様が、希少なデレを俺に披露してくれるなんてなあ。俺すっげえなあ」
「からかってんなら殺すよ」
「難しいこと言うなって。殺すってか死ぬの概念を議論すんの面倒くさいじゃん、俺達」
「そうやって本題を逸らすの、本当卑怯。こすい」
「本題ねえ。そうねえ」
息を付きながら呟いて、斎藤は僕のあごをすいと持ち上げた。
「とりあえず、俺に焼きもちをやかせようと一生懸命なのはちょっと可愛い。けど、わざわざ異動すんのはダメ」
「うわ、駄目出しとか、うざ。ていうか焼きもちって、なにそれイミフ」
「うちの部長が簡単にお前を外に出すわけないからな。どうせ要所要所をたらしこんで、期間限定で降りてんだろ」
全てお見通しなのが、そして全部正解なのが、腹立つ。
いつもそうだ。斎藤は、僕のことをいつも正しくわかる。
腹立つ。
「でも、手の掛かる子は好きだな。楽しいよ。だから、もうちょっと色々してみてもいいよ?」
僕の頬をぷにぷにとつまみながら、滅多に見せない上機嫌な微笑みを浮かべるものだから、僕は悔しくて悔しくて、斎藤の手を払いのけて、全力であっかんべーをしてやった。
作品名:破滅姫のコイゴコロ。 作家名:一之瀬 優斗