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海野ごはん
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十六夜(いざよい)花火(前編)

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 翌朝、加奈子は美香に連絡した。
 美香は加奈子の行動の速さに驚いた。
「あんた、早いわね。よっぽどあの家出たかったの」
「そうじゃないけど、愚図愚図するのが嫌なのよ」
「私もやっと愚図愚図が治った」
「出ていくの?」
「そのつもりだけど残念なことにお金がない」
「一博は?」
「まだ一緒に住むわけいかないでしょ。ちゃんと別れてないんだから」
「あっ、そうだね・・・いつするの、その話?」
「今日帰ってくるから、今夜になるかな」
「ふ〜ん、いろいろ話そうか。ここにおいでよ。かわいい部屋なんだから」
 加奈子は美香に住所を教え、近くのわかりやすい場所を教え道案内をした。
 お昼過ぎに美香はやってきた。



「いい部屋ねぇ〜」美香の挨拶の言葉だった。
 加奈子の部屋は年齢に似合わず可愛いもので埋め尽くされてた。
「全部、私の好み。少女趣味なの。昔からやりたかったのよ〜」
「笑うけど、なんだかうらやましい。私なんか自分捨ててたもんね」
「あら、なんで?」
「昨日、荷物をまとめたら自分の物は少ししかないの。みんな家族の為って感じ・・・」
「そうね…女って丁稚奉公みたいよね。結婚観考え直さないとね〜」
 加奈子は美香のためにハーブティーを作り出した。華奢なティカップが可愛い。
「ところで、一博は?」加奈子が聞いた。
「今日は仕事してるらしいわ。なんであんたの旦那の事を私が話すのよ」美香が笑う。
「そうだよね」加奈子も笑った。
「改めてごめんね。騒動に巻き込んじゃって」
「全然いいのよ、気にしない。お礼を言いたいくらい」
「やっぱり〜〜」二人で笑った。

「健三のこと聞きたいんだけど〜・・・」
 加奈子は言いにくそうに美香に聞いてきた。
「ああ、健三ね。でもどうして、健三がいいの?」
「昔、ラブレター渡したことあるんだ」
「へぇ〜、で、どうだったの」
「無視された・・・」
「あいつはリアクション下手なのよ。女嫌いなのかな」
「でも美香とは結婚したじゃない」
「それは、健三が銀行員で安定的に見えたからかな〜。私が押し掛けたのよ」
「誰だって安定は欲しいよね」
 加奈子は自分と一博の時を思い出して頷いた。
「さっきの女嫌いってどういう意味?」気になった言葉を加奈子は質問した。
 ウ〜〜ンと言いながら、言おうか言うまいか迷ってる美香に、加奈子はせっついた。
「健三、意外と夜は淡白なの・・・。もう、ずっとしてないわ」
 少し恥じらいながら美香は告白した。
「男に気があるとか?」
「嫌だぁ〜、そんな訳ないと思うけど・・あったら、どうする加奈子?」わざと美香は振ってみる。
「ないとは思うけど。どうなのよ、なんであれが嫌いなの?」
「あれって、仕事ばっかりしてたら女に興味がなくなるんじゃないの?」
「いつからしてないの?」身を乗り出して加奈子が聞いてくる。
「う〜〜ん、10年・・?」
「えっ! 10年っ・・。一博と結婚した時だ。ずいぶん昔じゃない」
「でしょう・・・おかしいでしょ〜」
「本当に女嫌いなのかな・・・」
「男の人ってしなくても大丈夫なのかな〜」
 美香はいつも不思議に思っていたが見当がつかなかった。
「そんなことないと思うよ。私の回りの男はしたがりばっかりだったもん」加奈子が言う。
「家庭の奥さんは嫌で、よそだったらいけるのかな〜」
「えっ、健三って外で遊ぶタイプ?」驚く加奈子。
「ううん、ぜんぜん。本当に仕事ばっかり。だけど出張先までは知らない。そうなんだろうか」
「外の行動、チェックしないといけないわね〜」加奈子が腕組みをして真剣に考える。
「してないと思うよ。堅物だもん。今までそんな雰囲気なかったわ」
「じゃ、ただのストイックなだけ〜? それとも病気?それとも一人でしてんのかなぁ〜?」
 加奈子の言葉に美香は笑った。
「やだぁ〜〜、考えられない。うそぉ〜・・・」
「男って溜まるもんでしょ・・どっかするはずだよ」加奈子が言う。
「やだぁ〜〜、考えたくな〜い・・・」
 美香は顔を隠して堪え切れぬ笑いを漏らした。
「でも、それって私より自分の手の方がいいってわけ・・・なんだか、それも嫌だな〜」
 美香が言った。
「面倒くさがりなのかもね」
「あ〜、それはあるある。話すのも面倒みたい」
「・・・・・じゃ、口説くの簡単かもね」加奈子が自信ありげに言った。
「どうして?」
「もう、ずっとしてないんでしょ。色仕掛けだったら簡単かも」
「・・・・」

 美香は私がダメなのにあなたに出来る筈ないでしょ・・と思った。
「私さ、顔は美香に負けるけどナイスバディなのよ」加奈子が胸を張る。
「もういい歳じゃない・・・そんなに自慢できるの?」
「お腹も出てないし、バストだってたるんでないわ。お金かけてシェイプアップしてたもん」
「え〜〜ほんとに〜〜」
「顔はこの歳になるとみんなおばさんだし、そう大差ないと思うのよね」
 確かに、この歳の顔で男を釣ろうなんて少し無理がある話だ・・・。
 美香は加奈子の自信に驚きながらもあの健三が女の体に興味を示すなんてととても思えなかった。自分の夫ながら、どうなるか興味が湧いてきた。


「じゃ、まず色気作戦で行ってみようか」加奈子は超乗り気だ。
 わくわくして楽しそうな加奈子を見ると今更ながら健三をあげるのは惜しいかもと美香は変な心を揺さぶられた。しかしサイコロは振られたのだ。
 それから、加奈子は井田写真館の仕事の事を言ってきた。
 一博と一緒になるのだったらお店の事を教えてあげると。

 いよいよそこまでなると健三と別れ、一博と新しい生活をすることになるのだろう。現実感が伴わないまま人生が進もうとしていた。きっと、不倫のキスを始めた時からこのシナリオは、役者が覚悟しようがするまいが動き出していたのだろう。
 美香は動き出した人生の列車に乗り遅れないように飛び乗らなければならない。旅立ちとはこういう事かもしれないと思った。
 仕事の事は了解した。1週間後から始めることにした。