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海野ごはん
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十六夜(いざよい)花火(前編)

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美香は一博の夕食をすでにテーブルに用意していた。健三がドアを開ける音にびくりとする。
「遅かったのね」
内心穏やかじゃないが、できるだけ普通の会話で健三の出方を待った。
健三は何も言わず着替えると風呂に入った。いつもは食事が先なのだがどうしたのだろう。
昼間の事をどこから話せばいいのか、昨日の健三と一緒にいるところをどこから話せばいいのか考えはまとまらないでいた。というか、自分から切り出せるはずがなかった。美香の心臓は早打ちしていた。
健三は風呂から上がってくるとタオルで頭をゴシゴシしながら言ってきた。
「一博と最近しょっちゅう会ってるのか・・・」
美香はキタァーと思いながら健三の声のトーンに合わせて普通に喋る。
「うん、最近頼み事が多くっていろいろ手伝ってあげてるのよ」
とっさにでまかせが出てきた。
「何の頼み事なんだ」
「う。うん・・・仕事を手伝ってくれないかな〜って・・・」
「スタジオのか?」
「そ、そう・・・人手が足りないんだって・・・」
健三はどこまで疑ってるんだろうか美香は探った。それよりも本当は自分が切り出すはずじゃなかったのか。しかし、なかなかやっぱり自分から「浮気してます。別れてください」ってのは言いづらい。


 健三は美香の浮気を疑ったが実際見たわけじゃない。だから直接問いただすのはと考えたのだ。それに保身かもしれないが、この生活が変わるのが嫌だった。嫌というより面倒なのだ。
食事・洗濯、家庭という形さえあれば居心地がいい。浮気の話を持ち出してガチャガチャなるのが嫌だった。もしも一博と何かあったらと考えたら癇に障るが、それより今の生活を崩したくないのを優先した。
肉体関係というか夫婦生活はとうにやっていない。だから妻である美香もそれほどセックスに関しては興味ないのだろうと解釈している部分もあった。だからその手の肉体関係の疑いが強く湧き上がらないでいた。
ましてや恋愛なんて、いい年してホテルとか行っている筈はないとタカをくくっていた所もあった。すべて自分の都合のいいように考える方が楽だった。だから美香には強く言わなかった。
 美香が用意した食事を食べると、いつものようにテレビの前に寝転びビールを飲み始めた。

美香は健三が次に何を言い出すのか気が気でなかった。自分から言おうかどうしようか迷った。一度ははっきり決意した筈なのに、やはり浮気の告白は出来なかった。本人を目の前にしたら勇気が湧いてこない。それと、お昼の加奈子の言動も影響していた。健三と加奈子が一緒になるなんて・・・。
欲張りなんだろうか、急に手放すのももったいない気がした。大きな決断に直面した時にはどうしても躊躇する。誰だってそうであろう。 すべてがひっくり返りそうなのだから。
 美香は一人悶々として、これからどうしようか迷った。浮気の事実より、この生活を捨てるのか捨てないのか・・・はっきりしなくちゃと思うほど決断が出来なかった。
 

健三はテレビの前でビールを飲み終えると
「もう、俺は寝るからな。明日からまた3日程いないから」と言って
自分の部屋に行った。
ホッとしたのと拍子抜けしたのとで美香は力が抜けて食卓の椅子に腰を落とした。
「これで終わり?追及はなし?・・・」
修羅場の覚悟をしていたのだが気が抜けた。
携帯電話が無音でぶるぶる震えた。一博からだった。

“大丈夫か。喧嘩になってないか”のメールが届いていた。

美香はありがとうと思ったが返事はしなかった。
健三が手元から放れるのは惜しいと思った気持ちを持った事が、一博に対して少し悪い気がした。
自分でどうする気なんだろうと他人事のように考え、健三が残したビールを飲んだ。そして静かな部屋に美香だけが残った。