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海野ごはん
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十六夜(いざよい)花火(前編)

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「ところでさ・・・」加奈子が切り出した。
「私はこの家出ていくんだけど、何にも持たずに出ていくわけ行かないんだよね」
一博に向かって言った。
「調べたんだけど、ある程度のこれから生活に困らない財産を持っていけるんだよね」
「まぁ、そうだけど・・・」一博の苦々しい顔。
「いいじゃない、私が来て儲かった部分もだいぶあるんだし」
「まぁな・・・」
「半分とは言わないわ。経理やっているからお財布事情は全部分かるの」
美香はしたたかな女だと思った。でも、私だってそうするだろう・・・。
「借金もあるし、多分、今私が持ち出していいのはこれくらいかな」
そう言うと加奈子は指でVサインを出した。
「なんだ、200万か」一博が言った。
「馬鹿じゃないの、2000万よ」加奈子は真剣な顔つきになった。
「なっ、なっ、そんな金、何処にあんだよ」
「言ったでしょ。お金事情は全部知ってるって。そんだけ引いても十分、井田写真館は回していけるわ。土地もあるじゃない。これでも、すごく気を使っているのよ」
「ごうつく女め」一博が毒づく。
「なによ、それ。じゃ裁判で戦う?」
「・・・・・」
「それから、お父さん、お母さんにはちゃんとあなたの浮気が原因だと言うからね。私が悪者になったらいやだもん」
「・・・・」
美香には何も言い出せなかった。
一博の物はいずれ自分のものになるのだろうが今は言える立場じゃなかった。下手したら、自分にも不倫の代償を払わなければならない。さわらぬ神にたたりなしだ。

「美香〜」
加奈子が美香に向いて言った。

来たっ〜〜。
「美香には不倫の請求しないから安心してね・・・」
恩の着せ方がうまい。
「・・・・」
答えを返す気にもなれない。美香は知らないふりをした。
「で、さっきの話。ちゃんと別れてね」加奈子が言う。
癪にさわる美香。
「別れてもいいけど、健三が許すかしら」
「いいのよ。あなたが事実だけ告げて捨てればいいのよ。そのつもりだったんでしょ」
そう言えばそうだが・・・。
「でも、離婚は同意が必要でしょ」
「まぁ、そうだけど、あなたが目の前からいなくなればいいだけの話じゃない」
「どうして?」
「結婚は紙切れ1枚の約束でしょ。目の前に相手がいなかったらもう夫婦じゃないわ」
「でも、いろいろあるんじゃない」
「美香が会わなければいいのよ。一博が好きなんでしょ」
「そう、はっきり言われると、また考え直したくなるじゃない」
美香は加奈子の横着な言い方に反論したくなった。

「おい、おい」一博が慌てる。これ以上無駄な戦いはやめてくれ。
「あら、一博はもういらないの」突っ込む加奈子。
「でも、健三はあなたの方に向くかしら」
だんだん頭にカッカしてくる美香。
「・・・・応援してね・・・・」しらじらしく加奈子が言った。
思わずコーヒーカップを投げたくなった美香だったが我慢した。
おろおろする一博。
まざまざと女の戦いを見る。どうして女ってやつは・・・。
一博は「もういいだろ」と言って美香の腕を取り、帰る準備をさせた。
「じゃ、送っていくから」
「ごゆっくり・・・」
一博は美香を連れて急いで玄関を出た。外は暑い夏の太陽が充満していた。


「あったま来たぁ〜」美香は一博の車に入るなり言った。
「絶対、あれ仕組んだんだよ。あの時の旅行」
「まあまあ・・・」一博は落ち着かせるのに躍起だ。
「性格悪いねぇ〜、あの女」
美香がここまで怒るのは見たこともない。こうやってだんだん知らない部分が見えて、愛も霞んでいくんだろうかと一博は先行き不安になった。

しかし、あの加奈子が健三を好きだったなんて・・・美香はつくづく捨てる神あれば拾う神もありだと思った。それに、ああやって言われたら捨てようと思った健三でさえ惜しくなる。
今まで使わないが大事にしてたおもちゃを押し入れの中から引っ張りだされ「これ頂戴」と言われた気分だ。

何かをしようとしたら何かを捨てなければならない。頭では分かっているがなかなか生理的にできないもんだ。しかし、そう言っても、これから今夜、健三と正面切って離婚の話をしなければならないのは事実だ。 
一難去ってまた一難と、ああ不倫なんてしなければよかったと面倒くささに美香はうんざりした。
その夜、健三は帰ってきた。