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海野ごはん
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十六夜(いざよい)花火(前編)

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 健三の花火工場は田舎の殺風景な山のふもとにある。工場の敷地はかなり大きい。これは爆発しても民家に被害が及ばないようにだ。仕事の緊張感とは裏腹にのんびりした田舎の風景の中に溶け込んでいる。
 工場の門をくぐるといくつかの作業小屋が点在している。そしてその作業小屋は厚いコンクリートで仕切られてたり、小屋と小屋の間にブロック塀があったり、やっぱりこれも爆発の被害を最小限に抑えるための工夫が施してある。知らない人間が見たらちょっと変わった光景である。
 中央には防火用水の水が貯えてある。これも最後の避難場所だ。
敷地内の人が歩くところはすべてコンクリート敷きの通路になっている。これは出来るだけ小石や砂などを、人の歩く所に持ち込まない為で、小石や砂などによる接触による火花の発生を押さえている訳だ。
 これほど細心の注意をしなければならない職場に働こうとする人間はやはり花火が好きではないと緊張感に耐えられない。健三は毎日この工場で生きる楽しみを見つけていた。

 
 同級生4人で旅行した息抜きも終わり、あれから健三は毎日忙しく働きづめだ。夏の花火シーズンに向けて工場はフル稼働していた。健三の今の仕事は星づくりをしていた。
 星づくりとは夜空に光る花火が大きな花だとすると、ちょうどキラキラ輝く花びらの部分が星だ。その星の色は調合された火薬を何層も重ね合わせ色が変化するように工夫されている。小豆大の小さな芯玉に色ごとの層を重ねていく仕事なのだ。乾かしては重ね、乾かしては重ね、大変な仕事である。小豆大の芯玉が2〜3cmぐらいになるまで作り込んでいく。
 そして花火はその星を丸い玉皮にきれいに並べ、いくつかの種類の星を包み込んで一つの花火が完成するのである。
 健三は新しい花火の色の配色をいくつか試していた。今年の夏にお披露目できるはずだ。電気は使えない。夏は暑く、冬は寒い過酷な条件の中で汗を流していた。


 美香は食品工場に週4日だけパートとして通っていた。以前は毎日子供の学費のため働いていたのだが、子供の就職と同時に勤務日を減らした。美香の工場はコンビニ向けの食品工場で24時間フル稼働の工場だ。
 白い作業委にマスク・キャップ・ゴーグルと衛生を考えた姿で、誰が働いているのかわからない姿で、流れるコンベヤーの弁当に盛り付けをしていくのだ。計画通り時間通りまるで機械の一部の様に働かなくてはならない。ロボットが開発されたら、多分消えてゆく職業なのかもしれない。今はまだ出来ぬロボットの代わりに働くしかない美香の姿があった。