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海野ごはん
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十六夜(いざよい)花火(前編)

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「何を話してるのかなお二人さんは?」おどけて言う一博は空気作りがうまい。
「ばばぁとじじぃの老後のことだよ・・」
健三の冗談に美香は驚いた。普段こんな冗談は聞いたこともない。
よほど機嫌がいいのか、これが普段の健三なのか…いやいやそんなはずはない。美香は健三の横に座った。加奈子のおかげでまあ淋しい思いはしてないようだ。
 普段はお酌なんかしない美香が健三に酒を注いだ。
「ほら、言っただろ。外面がいいんだ・・・」
健三は上機嫌なのか皮肉の冗談も言えるようになっていた。クックックと笑う健三と加奈子に美香と一博は顔を見合わせた。
「なんだかお二人さん、仲がいいんじゃないの」一博が言う。
「そうそう、なんだか怪しいわね」心にもないことを美香が言う。
「この人ね普段から仏頂面してるから、意外とこんな場所はいいのかもね」続けて言った。
「あのさ、今思いついたんだけどよかったら4人で旅行に行かないか」
もちろん一博はよこしまな考えが閃いたわけだ。
「なんだか、楽しくなりそうじゃないかな」すらすらと言葉が出てくる。
 美香もピンと来たのか
「おもしろそうね〜最近旅行なんて行った事ないのよ」
浮気願望じゃないが4人で行けば一博とまた楽しい時間が過ごせると思ったのだ。
 加奈子は二人が行きたがっているのがすぐわかった。一博の女癖が悪いのは今に始まったことじゃない。きっと美香をどうにかするつもりなんだと、こちらもピンときた。加奈子はしゃくだが「そのアイデアいいわね〜。私も旅行したかったんだ」と見えない舌を出していった。
 加奈子は健三が好きだった。今はもう歳を重ね、お互い別人のようだが健三の顔を見ていると遠い昔に戻ったようで若返ったような気がするのだ。同窓生効果というのか、昔の時間が蘇りあの頃に近づけるような気がするようだった。
 加奈子はもう一度告白するのも面白いかもと、勝手に旅行の夢を先まで見立てた。
3人のそれぞれの思惑は合致したのだが、健三は「面倒くさい」「仕事が忙しい」と断った。

 何より健三にはよこしまなことは何一つないし、だいたい一博の魂胆は読めていた。美香と遊びたいということなんだろう・・・こんな外面だけがいい女の何処がいいのか・・健三は自身が美香に対しここまで覚めていたのかと思うと改めてはっとした。いつの間にか自分の女から家事手伝いのような女になってしまったんだろう。そんな美香を思うと少し済まないと思う気持ちが頭をもたげた。
 心が緩んだ拍子に美香の久しぶりの笑顔を見たもんだから、健三はつい・・・
「わかった」と言ってしまった。
それから3人は予定を勝手に決めていた。
連休が終わったすぐ次の日曜日に行こうと言い出した。
花火製造の工場は忙しいがまだ日曜は休めるほど余裕があった。6月からは休みもないほど忙しくなるだろう。特に7月8月9月は花火大会の盛りで睡眠時間も3時間ほどになる。その前の骨休みもいいかと、また、つい・・・了解してしまった。
健三は今日は酔ってるのかもしれないと思った。




 同窓会はまた一博のめちゃくちゃなスピーチで笑いと共に閉会した。帰りにはしっかり井田写真館の袋の中に入れられた記念写真を持たされることになった。写真の中の健三はただ一人笑ってなかった。
 怒ったような気のないような顔をしている。あの時気が付かなかったが横に加奈子が一緒に写っていた。二人並んだ顔を見ると確かに35年が過ぎたんだと納得した。放課後の告白を思い出そうとしたがもう思い出せなかった。酒のせいだろうか、それとも今の加奈子の顔が被さってくるせいだろうか健三は美香が呼んだタクシーの後部座席のシートに深々と酔った体を預けた。そして美香は窓ガラスを開け一博に手を振っていた。健三にはどうでもよかった。別に嫉妬はなかった。
それが35年ぶりの同窓会だった。そして4人での次回の旅行の約束が残っていた。