恋愛小説
理想的な別れ方だ。自分も常々そうありたいと匡介は思っている。
「彼女の異動がなかったら、そのままつきあってたと思うか?」
「どうかな…」
士朗はちょっと首を傾げ、
「いや。遅かれ早かれ別れてたんじゃないか。結局、彼女にとっては俺じゃなかったんだ。俺にとっても彼女じゃなかった。だから、ノーマが他の男とそういうことがあっても…いや、あって当然なわけだが、何とも思わない。が」
そのあとに続く言葉は、推して知るべしだった。
「マドンナが、と思うと気が狂いそう、か」
話が、もとに戻った。
士朗は首を振って、酒をあおった。そんなことを想像しただけで、不吉な予感が現実のものになりそうな気になる。士朗は嫌な予感がしていた。何が嫌なのかよくわからないが、何か得体の知れない暗雲に阻まれているような気がしていた。今の士朗には、依子との未来などまったく見えないのだった。
匡介はそんな士朗が愛おしくなった。こいつ、この俺が嫉妬しそうなクールで濃厚な恋愛話を語って聞かせたくせに、マドンナのことになるとからっきしガキだな。
「バカヤロ。大丈夫だって! ほら、飲むぞ。今夜はとことんつきあうぜ」
匡介は、士朗の背を大仰にさすってやり、
「ジルちゃーん。こっち、ジンライム2つね」
と、カウンターの中へ明るく叫んだ。