6色の虹の話
私の話
はじめましては一目ぼれからだった。
SNSを通じて知った彼女の言動や考え方の可愛さに負けて会いたいと伝えて、会った後に外見まで可愛いって狡いと思った。
「別に誰にでも会いたいって言うわけじゃないんだよ」
「本当?」
「うん。本当」
電話の向こう、シノさんが笑う。
その姿を思い描いて私は布団の中で転がりまわる。
可愛い。可愛い。可愛い。
自分よりも一回り以上も年下の彼女はすべてがふわふわしていて、本当に可愛くて仕方がない。
私の動きに、飼っている猫が嫌そうな顔をして布団から出て行く。
「ねえ、モモちゃん」
「うん?」
どうしても敬語が抜けない私は彼女をシノさん、と呼ぶ。
彼女は私をモモちゃんと呼んでくれる。
他の誰も私をそんな風には呼ばない。彼女だけ、私をそう呼ぶ。
何度か一緒に会って、遊んで。
多分、遅い遅い初恋。
色んな感情が未発達だった私の中で近くなった距離の分、思いが育つ。
未だにこれが恋だと胸を張って言えるだけの確信はないけれど。
シノさんを思うと会いたくなる。傍に居たくなる。
一喜一憂して、固かったはずの私の涙腺が緩くなる。
声を聞きたくてソワソワするし、可愛いものを見てシノさんを連想して顔がにやけてしまう。
「今度はいつ会えるかなぁ?」
「そうねぇ…」
カレンダーを見つめる。
私の休みと彼女の休み。月に一度合えばいいその日を探す。
「来月…研修が入ってる日はいつだっけ?」
「えっと……十日、だったかなぁ?」
「じゃあ…次に会えるのは再来月の二十三日、かな」
会社の飲み会が前日に入りそうだが、そちらは不参加か一次会だけで帰ろう。
何を優先するかなんてもうとっくに決まっている。
「そっかぁ…」
「もう用事入ってた?」
「ううん。大丈夫」
新しい友達ができたんだ。周囲にそう伝えてみた。
古くからの友人にはそれだけ年が離れていると話が合わない気がするから私は無理だな、と言われたけれど。
「楽しみね」
「うん」
シノさんは楽しいと言ってくれる。また会いたいと言ってくれる。
それが嬉しい。
仕事しながらその日を楽しみにしてる、なんて言われたらもう転がりまくるしかない。
「早く会いたいね」
もっと近くに居られたら、一緒に晩御飯を食べようとか、一緒に映画に行きたいねとか。
気楽に気軽に誘ってもっと会えるのに。
シノさんさえよかったらいつだって、すぐに会いに行くよ。
言いたい思いは飲み込む。
だって『友達』が『友達』に言う言葉じゃない。
だから。
「あのね」
「なぁに?」
言ってもいいかな。
一拍、二拍。
「すき。だいすき」
「ふふっ」
ここまでは何度も言ってるから気にされない。
でも今日はもう一歩。
いいかな? いいかな?
親しくなれば親しくなるほど、言いたくて堪らないけれど言えなかった言葉。
ぽろりと零れる。
「本当の彼女になっちゃえばいいのに」
一拍、二拍。
言った後の沈黙が痛い。
「怖いことしないよ。大事にするし」
「大事にするの?」
「うん。約束する」
「…じゃあ、いいよ」
「本当? 彼女できたって言いふらすよ?」
「いいよ。ちょっと恥ずかしいけど」
くすくすと笑う声が甘い。
ヤバい。泣きそう。
例え冗談で言ってくれたんだとしても凄く嬉しい。
早く再来月になればいい。
そうしたら抱きしめて本当かどうか確かめられるのに。