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朝木いろは
朝木いろは
novelistID. 42435
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十七歳の碧い夏、その扉をひらく時 <第一章>

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 浴室を出て脱衣所に脱ぎ捨ててあるジーンズのポケットを探った。手のひらにザラっとした感触が伝わる。探していたガムの包み紙はすぐに見つかった。だが、この紙を開くかどうかで俺は随分と悩んでいた。もし開けてみて、それがただの紙だったら? さっきの出来事がただの白昼夢だったら? 考えれば考えるほど現実を知るのが怖い。だが、俺は心の奥底で中身を知りたいと渇望していた。一瞬目をつぶり、ぐっと指先に力を入れて中を開く。メモには丸っこい文字で、一ノ瀬未咲という漢字に、いちのせみさきとふりがなが振ってあった。その下に携帯のメールアドレスもある。
「一ノ瀬未咲、いちのせみさき、か」
 俺は腰にベージュのバスタオルを巻き、洗面所の鏡の前で包み紙を右手に握ったまま女の名前を数回呼んだ。
 その夜、久しぶりに夢を見た。地平線が見渡せる広い野原のような場所で手のひらいっぱいの花束を抱え、俺は楽しそうに鼻歌を歌っていた。目指した先は大きな木の下で、そこには誰かが幹にもたれかかって立っていた。白っぽいワンピースの裾が風に吹かれてゆらゆらと揺れている。目深に被ったつばの大きな麦わら帽子からは、肩より少し長い黒髪がのぞいていた。
 翌朝、目がさめてからも気持ちは弾んだままだった。小さな子どもがずっと欲しがっていたおもちゃをやっと手に入れた時の嬉しさに似ているのかもしれない。足りなかった何かがカチっと心にはまったような気がして、心は幸福感で満たされていた。

(第二章へ続く)