十七歳の碧い夏、その扉をひらく時 <第一章>
洋人は紺色の制服のジャケットから携帯電話を取り出し、俺の目の前に「ほれ」と差し出してきた。そこには、機嫌の悪そうな顔をした俺の写真とプロフィールらしき個人情報が載っていた。
所属:緑が丘第一高校 二年三組
血液型:A型
誕生日:四月二十四日(十七歳)
一言:彼女募集中
「なんだよこれ」
「お前のこと書いたらスッゲー数のアクセスがあったんだ」
「個人情報の垂れ流しじゃないかよ」
「自己紹介ならぬ他者紹介、なんてな」
「嘘ばっかり書くな。彼女なんて募集してねぇし」
「お前さ、もう十七なんだし恋でもしたら? 好きな女ができればその無気力も直るだろ」
「俺は理想が高いんだよ」
「いいから聖ミカの子と付き合っちゃえ。あそこは金持ちのお嬢だらけだし」
「早く消せよ」
「消す?」
「俺の個人情報を消せって言ってんだよ」
「あーあ、つまんねぇの。Wデートでも実現するかと思ったのに」
「彼女もいないくせに何がWデートだよ。ったく勝手に顔写真まで使われるし最悪だな」
思いっきり不機嫌そうな顔を浮かべた途端、洋人は逃げるように「じゃ、また教室で。遅れんなよ」と言いながら足早に去っていった。あいつは昔から俺の顔色を見て、いよいよ状況がヤバくなってくるとさっと逃げる癖がある。「またか」とお調子者の洋人に半ば呆れながらも、俺はゆっくり立ち上がり五月の空を見つめた。細長い雲がゆらゆらと風に揺られ、引っ張られて棚引いている。
そうだ、午後はこのままサボろうか……。大きく伸びをしてから、冷たいコンクリートの上にゴロリと寝転がった。
作品名:十七歳の碧い夏、その扉をひらく時 <第一章> 作家名:朝木いろは