濃霧の向こう側に手を伸ばして
その体勢のまま、彼女は寝息を立て始めたので、俺は抱きしめる力を少し緩めてやった。腕枕なんて久しぶりで、寒い部屋の中で指先は凍えそうだったから、俺はスッと彼女の首から手を抜き出し、布団にしまった。それでも片腕は彼女を抱いたまま、眠りについた。俺と同じシャンプーを使っているはずなのに、彼女は俺とは違う、女らしい香りがした。
その日以降、布団は押し入れにしまう事になった。シングルサイズの、俺一人でも狭いぐらいのベッドで、二人で寝ていた方が、彼女は空虚な感情にとらわれずに済むと言う。
作品名:濃霧の向こう側に手を伸ばして 作家名:はち