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ゾディアック・コンダクト

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第一話Bパート



弱く柔らかい朝の日差しが教会の木窓から差し込み窓の霜を溶かしていく。
窓から伸びる光が粗末なベッドに届こうかと言う頃、少年は目を覚ました。

大きな黒い瞳をこすり、栗色の髪には少し寝癖がついている。
格好良いという言葉よりまだ可愛いという方が似合う少年ルカはベットの中で大きくあくびをした。
 
しかし、この季節の床の中と言うのは実に甘い誘惑である。
ルカは何度も目を開けては閉じ、左右に寝返りをうちながらそう思った。 そしてその誘惑に簡単に負けてしまいそうだったが、それはどうやら神が許さなかったようだ。

「ルカ!神様はどうして昼と夜を創ったと思う? 昼に働き、夜には寝る為だ! そして今は朝! さっさと起きて働きな!」

修道着を着た体格の良い女、マールは乱暴にドアを開けて怒鳴った。
シスターは神の使いであるとどこかで聞いたがマールだけは絶対に違うとルカは思っていた。
もし仮にマールが神の使いなのなら、神の母である聖母は彼女から修道着を取り上げることだろう。

「もう起きてるって… それに、神が昼と夜を創ったのは、太陽と月が交代で世界を護っているからかもしれないじゃん?」
ルカが木窓に向かってわざとらしく祈りのポーズをとってみせる。
それを見たマールは少し呆れた顔をしてため息をつき

「祈る気があるのなら、ちゃちゃっと着替えな!」とドアをまた強く閉め部屋を出た。
 
ルカが着替えを取りにベッドから起き上がると部屋がいつもより散らかっていることに気づいた。 
机の上に並べられた様々な鉱石や化石。 これはルカの物だ。
問題なのは床に散らばる分厚い本の山。 表紙はきちんと動物の皮を使い四隅には鉄で補強までしてある大変高価な物。しかもその全ての本に「エトワール」という文字が見え隠れしている。クルスが置いていった物だ。

「エトワール」最近この名を聞かない日は無い。
百年に一度だか千年に一度かの冬に見られるという「大流星群」
昨夜はこいつが見られなかったせいでクルスの機嫌が大変悪く、あれからルカの部屋に場所を移して百年か千年に一度あるかという奇跡との遭遇についての演説が今朝方まで続いたのだった。

「ったく!これ以上人の家に私物を増やすなよな…」
ルカは軽く口元を緩ませクルスが演説台に使っていた足の揃っていない椅子を机に戻し呟くと床に散らばる本を部屋の隅へ追いやった。
そこにはクルスが持ってきては置きっ放しの本や星図、地球儀に望遠鏡まである。
 どれも細かな装飾までしてある大変高価なもので、ボロボロな教会の一室には驚くほど違和感のある物達ばかりだった。

 領主の娘とは皆このように手に入れた物に執着が無いのだろうか? 答えは多分否だった。

ルカが手早く仕事用の作業着に着替え部屋を出ると礼拝堂から朝のお祈りを済ませた修道女が笑顔でこちらに歩いてくる。マールの一人娘、シャロンだ。
「おはよう。ルーくんまた怒られたの?」
マールとは違う優しく清らかな声。 シスターはやはりこうあるべきだとルカは思った。
「怒られてはいないよ。ただちょっと起こされ方としては乱暴だったかな?」ルカは苦笑いを浮かべながら頭を掻くとシャロンはか細い手を口元にあてクスクスと笑った。
「それにルーくんって呼び方はいい加減…恥ずかしいよ…。」
「あら?何で恥ずかしいのかしら?すごくかわいいじゃない」シャロンは翡翠色の瞳を大きく開き首を傾げたが、ルカの言いたいことはすぐに理解したようだ。
「わかった!可愛いじゃなくて格好良いって言って欲しいのかしら? でもそういうところがすごくかわいいのよ。 ルーくん」わざとそう呼ぶとシャロンは頭一つ分低いルカを抱き寄せ笑顔で優しく背中を叩いた。

シャロンは優しいけどちょっとだけ意地悪だ。
けどそんなシャロンの方が自分より絶対かわいいとルカは思った。 そしてもう少しそのシャロンの腕の中で心地よい香りに酔いしれていたかったが、どうやらシャロンは単にルカをからかいに来たのでは無かったようだ。
「あ、お父様が呼んでいたわよ?」
「ボクシィ司教が?」
「ええ、最近朝のお祈りをさぼっているからお怒りなのかもしれないわね」
シャロンはまた意地悪くにこりと笑みをつくった。
 
しかし困った。 このまま素直に司教のありがたい説教に付き合っては確実に仕事に間に合わなくなる。 
ルカは礼拝堂に着き白髪で壮年の司教を視界に入れた瞬間腰を屈め、礼拝用の長椅子に隠れ摺り足で出口を目指す。
 
 「よし…あと少し…」
 と心の中で呟きそうになった時だった。
「あんた、何してんだい?」
木の枝で編まれた洗濯籠を抱えたマールがねずみを見つけた時のような目でこちらを見ていた。
「いや…これはその…」
「おやルカ、起きて来たのかい」
ボクシィもルカがいることに気づいたようだ。
「ごめん! 明日からはちゃんとお祈りしていくから! 」
ルカは皮袋を片手で背負い足早に教会から出て行った。

「シャロン、あまりルカをからかうなよ」
「だってからかい甲斐があるんだもんルーくんて」
シャロンは楽しそうに言うとひょっこりルカの後を追った。
「素直だからねえ、あの子は」
また呆れた様子でマールが続いたが口元は笑っていた。
 
「ルーくーん! 今日は早く帰ってきてねーっ!」
シャロンが叫ぶとルカは背中を向けたまま手を振って答えた。

つづく