ゆびきり
俺が思う存分泣いて泣いて、泣き止んだ後も、啓は俺をその腕の中に閉じ込めておいてくれた。俺はぐちゃぐちゃになった顔を、啓のシャツに顔を擦り付けるようにして拭うと、啓が耳元で「鼻水つけるな」と低く笑った。
「なぁ、啓」
兄ちゃんと呼ばなかった俺に、啓は何も言わなかった。
「啓、父ちゃん殴ったりした」
俺の問いかけに啓んふふと喉の奥で笑って「一発だけね」と答えた。さっき見た父ちゃんの左頬がうっすら赤いのや、母ちゃんが俺は殴るなって言ってたのが何でなのか分かった。
「俺だって許せないことあるよ、俺から慎太奪っていて何やってやがるってさ」
啓の声が耳に心地良い。
「慎太も殴っておけば?」
「俺はいいよ」
「なんで?」
「啓が殴ってくれたし、俺が殴ると母ちゃん怖いしね」
「そっか」
俺は啓の腕さえあれば、何でももう許せた。
「ねぇ啓。俺にまた仲良し指切りして」
俺のお願いに啓は目を細くして笑うと、俺の顔をそっと上げさせた。
「仲良し指切り、嘘ついたら」
啓の低くてやわらかな歌が、俺の鼓膜を震わせる。そして啓の赤い唇が俺の左の頬に触れた。
「針千本」
今度は右の頬。
「飲〜ます」
最後は唇の上で歌って、そのままくちづけてくれた。