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七ケ島 鏡一
七ケ島 鏡一
novelistID. 44756
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グランボルカ戦記 2 御前試合

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「・・・嫌なことを思い出させてくれたな、アン。」
「ちょっと待ちなさいよ。アンタが勝手に思い出したんでしょう。やつあたりは・・・やめなさいって・・・のっ!」
 二本の剣をクロスさせてヘクトールの攻撃を受け止めたアンドラーシュは、そのまま両腕に力を入れると、ヘクトールの剣を強引に押し返した。
「つか、二十年以上も経つのに、未だにカーラのこと引きずっていたわけ?だったら、さっさとアタックすればいいのに。カーラだってもうヴィクトルとも別れているわけだし。」
「・・・・・・。」
 アンドラーシュの発言を聞いたヴィクトルの表情が少しだけひきつった。幸い剣戟の音が大きく、舞台の外には声がもれていないようであるが、こんなことが観客の耳に入ればいい笑いものだ。
「まったく、どいつもこいつも唐変木なんだから。そんなんだから嫁さんから離縁状をたたきつけられたり、未だに独身だったりするのよ。ああ、いやだいやだ。寂しい中年オヤジの嫉妬とか本当にみっともないわよ。」
 そう言ってヘラヘラと笑うアンドラーシュを見て、ヴィクトルがヘクトールに声をかけた。
「・・・・・・ヘクトール殿。」
「ああ、大丈夫です。ヴィクトル先生。おそらく私も同じ事を考えておりますので。」
 ヴィクトルの言いたい事を察したヘクトールが手でヴィクトルを制してアンドラーシュにゆっくりと歩み寄る。
「なによう、二人して何企んでいるのよ。」
「アン。」
「な・・・なによ?」
 構えを解いて、無防備にズルズルとグレートソードを引きずりながら近寄ってくるヘクトールにただならぬものを感じて、アンドラーシュが一歩後に下がる。
「一つ、お前に言いたいことがある。」
「だから何よ・・・。」
「お前も・・・独身だろうがっ!」
「そうでしたぁぁぁっ!」
 下からアッパースイングで振り抜くようにして繰り出された剣をアンドラーシュは見事に受けたが、あくまでそれは受けただけで、止めたわけではなかった。ヘクトールの渾身の一撃はやすやすとアンドラーシュの体を持ち上げ、アンドラーシュは叫び声を上げながら、受けた姿勢のまま場外まで飛ばされた。
「勝負あり。勝者、ヘクトール。」
 ヴィクトルがそう言ってヘクトールの腕を持ち上げると観衆が大歓声を上げる。
「しかし、強くなったな、ヘクトール殿。儂の見込んだ通りだ。」
「何度も言っていますが、殿なんてつけるのはやめてください。先生にそんな風に呼ばれるとどうにもこそばゆいです。」
「そう言うな。こんな立派な戦士を呼び捨てにするわけにも行かないだろう。」
「・・・何二人でなごんでるのよ・・・これじゃアタシが噛ませ犬みたいじゃないのよ。」
 二人のやり取りを見ていたアンドラーシュはそう言って場外の地面に座ったまま、頬を膨らませた。