グランボルカ戦記 2 御前試合
ジュロメ要塞攻略戦
1 ジュロメ要塞攻略戦
イデアでの戦いの後、すべての兵がアンドラーシュ・アレクシス連合に降っていたアミサガンの街はアンジェリカやデールの手引きもあり、連合軍が街を包囲して半日。全く抵抗出来ずに陥落した。
リュリュの前に引き出されたアミサガンの反乱の首謀者であったフィオリッロ男爵については、アンジェリカが強く処刑を望んだが、リュリュの裁量で地下牢に幽閉されることで決着し、リュリュはひとまずアミサガンの街を取り戻す事に成功した。
帰還から3日。留守中に溜まっていた公務を片付けたリュリュは、自室のベッドに横になりながら、感慨深くつぶやいた。
「ふむ。やはり、この街、この城、この部屋が一番落ち着くのう・・・。」
「なんかその気持ちわかるなあ。旅をするのは楽しいし、この街も居心地いいんだけど、私も元いた街に帰りたくなっちゃう時があるもん。」
丁度いいタイミングで、前が見えない程山積みになったシーツを抱えて部屋に入ってきたエドがそう言って笑う。
「そうであろう。旅の空というのもいいが、やはり自分の暮らし慣れた場所が一番良いもの・・・」
途中で言葉を止めてリュリュはガバっと起き上がった。
「なぜエドが自然にメイドの仕事をしている?しかもエプロンドレスまで着けて。」
「え・・・いやあ。もう何年もやってきたことだから、身体が動いちゃうんだよね。それにエプロンドレスって可愛いし。」
「かわいいかのう・・・。」
「かわいいって!それに動きやすいし、変な人も寄ってこないし。」
「ふむ・・・それでおぬし、今度は一体何をやらかしたのじゃ?」
リュリュの言葉に、エドはびくっと肩を震わせ、そして視線を逸らした。
「や・・・やらかしたって・・・何のこと?私何も悪いことしてないよ。」
「とぼけようとしても声が裏返っておるわ。リュリュはちゃんと知っておるぞ。お主、昨日は挨拶で手にキスをした貴族の男を投げ飛ばし、一昨日はつまみ食いしようと忍び込んだ厨房でドレスの裾を踏んづけて、豪快に料理をぶちまけおったらしいではないか。さあ、白状せい。今日は何をやらかしたのじゃ。」
リュリュがそう言いながらエドに詰め寄ろうとした時、丁度通りかかって、開けっ放しになっていたドアから中を覗いたソフィアが声を上げた。
「あ、こんな所にいた。ジゼルちゃーん、こっちこっち。」
「うわっ、ソフィアはジゼルの味方なの?私達友達じゃなかったの?」
「だって、今日のことはエドが悪いからジゼルちゃんに協力してやれってレオ君が・・・。」
「ソフィアはレオの言うことを聞くだけじゃなくて、もう少し自分の意思で行動したほうがいいと思うよ!」
「なんじゃエド。ジゼル姉様から逃げておったのか。」
「エド!観念してダンスの練習をなさい!この先男性と踊ることだってあるんだから。」
「く・・・い・・・嫌だ!」
部屋の入り口に現れたジゼルに背を向けて、エドが窓に向かって走りだした。
「ちょ、ちょっと待てエド!ここは三階・・・」
リュリュが止めるのも聞かずに、エドは窓から飛び出した。リュリュが慌てて窓際に駆け寄ると、既にエドは器用に屋根を伝って地面へと達していた。
「ああもう、逃げられた。」
「猫みたいな奴じゃのう・・・」
窓際に走りよってきたジゼルと共に城門の方へと全速力でかけていくエドを見ながら、リュリュはそうつぶやいた。
作品名:グランボルカ戦記 2 御前試合 作家名:七ケ島 鏡一