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ドラゴンが飛ぶ空【募集終了】

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 たった今、ドラゴンが空を飛んだとしよう。
 どうなるだろう。
 人々は驚くだろう。
 ある人々は、世界の終わりだと泣き叫び、説法を唱えるだろう。
 それでも世界は、テレビカメラでドラゴンを追いまわし、大半の人々はテレビ越しの娯楽に沸き立つだろう。ドラゴンクッキー、とか、ドラゴン饅頭とか、ドラゴンチップスとか、様々なメディアミックスが、本ドラゴンの許諾も無しに行われるだろう。ドラゴンを題材にしたドラマやアニメが流行るだろう。世の中はドラゴン景気に沸き立ち、経済が上向きになるだろう。
 一方で、弊害も起こりうる。報道が過熱して、パパラッチのように各国のテレビ局がドラゴンを追いまわすだろう。その内、不幸な事故で、ドラゴンとヘリコプター、あるいは飛行機がぶつかってしてしまうかも知れない。もしくは、ドラゴンのお腹が空いていて、ぱくりと食べられてしまうかも知れない。どこかの戦場に迷い込んで、戦闘に巻き込まれてしまうかも知れない。でもドラゴンは頑丈だから、生き残るだろう。人間はもろいから、死んでしまうだろう。
 さて、この場合、ドラゴンと人間、どちらが悪いのだろうか。
 どっちが良くて悪くても、関係ない。
 ドラゴンが人間に危害を与えた。それだけで、今までドラゴン、ドラゴンと盛り上がっていた世の中は、逆に、ドラゴン憎し、ドラゴン許すまじの世の中に塗り替わるだろう。
 もちろん、中には「ドラゴンは自然の生物なのだから、不用意に近づけば危険なのは当然だ。サバンナのライオンのようなものだ」と真っ当な意見を言う者もいるだろう。
 しかし、ライオンはサバンナにいる。一方で、ドラゴンは空にいる。多くの人々は、人間が悪いと思いつつも、自分の頭上に危険な生物がいるという事実を無視できない。なんだかんだで理由をつけて、排除しようとするだろう。
 ドラゴンと人間の間で、戦争が始まるだろう。
 人間の間でも、争いが起きるだろう。ドラゴンを保護するべし、というグループと、ドラゴンを滅ぼすべし、というグループの、だいたい二つに分かれるだろう。
 ドラゴンが飛ぶ空は、きっと血で汚れてしまうのだ。
 放課後の教室。
 室賀信一(むろが・しんいち)はノートを片手に朗々と語った。
 しかし泉田純香(いずみだ・すみか)の反応は冷たかった。
「あんた、この歳でまだそんなこと言ってんの? もう高校生なんだから、もっと目の前の現実を見た方がいいんじゃないの?」
 信一は、ノートを閉じて机の上に置いた。
「本気で言ってるんじゃない。これは一種の思考実験であると共に、己を含む人類の排他性を糾弾し内省を促すための──」
「はいはいはい、世のため人のためって主張したいんでしょ? で、あんたが仮に、それを発表するとする。どこで、どうやって? で、どうなるの?」
 信一はずれて来た眼鏡を、中指でクイッと押し上げた。
「ホームページに載せるんだ。今のところ、訪問者が一日に二人くらいは来てるから、そこからじわじわ広がっていくと思うよ」
 純香は大げさにため息をつき、笑いながら肩をすくめた。
「それってさ、どう考えても、いや、考えなくても少ないよね? むしろそれっぽちでも見ている人がいることが驚きなんだけど」
「これからもきっと、少しずつ増えていくと思うんだ」
「いや、その二人のうち、一人はあたしだから」
「でも、まだもう一人いるし──」
「それは更新してるあんたでしょーが!」
「いや、僕の使っているサービスでは管理人は訪問者にカウントされないようになってるんだよ?」
「じゃあ、そのサービスの回遊訪問プログラムでしょ。それであんたのやる気を引き出してんのよ。誠心誠意かけて作ったホームページに訪問者が来なかったら、生半可な利用者はどんどんやめちゃうでしょ」
「そういうのは、よしてほしいなあ。僕はゼロでも続けるのに」
「そんな下らないことに時間を使ってないで、勉強しなさいよ、勉強!」
「僕は学年で総合十番以内だよ。すみちゃん知ってるでしょ」
「そんなことやってるから一番になれないのよ!」
「僕には一番になることよりも、大事なことがあるんだ」
「あら、そうなのなら正直に言うけど、くだらない!」
「そんなことはない」
「そんなことある!」
 泉田の携帯が鳴る。着信画面に出ている名前を見て、泉田は会話を打ち切り電話に出た。
「はい、泉田です。あ、松山くん? ごめーん、掃除の後片付けに手間取っちゃって、うん、今すぐ行くね。あ、でさー、この後のことなんだけどー」
 室賀に向かって小さく手を振った後、話を続けながら教室を出ていく。室賀も手を振り返しながら見送る。
「頑張ってね、すみちゃん」
 彼はそう言ってノートを閉じて、帰る準備を始めるのだ。