悲しき双子達
「孤独を知らない者は弱いのだ!!!」
ヘリコプターの飛ぶ音と共に
そいつの声が降りかかる。耳障りだ
「口を閉じろ、お前の固定観念なんざ知った事ではない」
俺は武器である日本刀
『理殺し』をそいつに向ける
「黙れ!!犬めが!!!
貴様に何が分かるというのだ!!」
だから、叫ぶなって
耳障りつってんだよ
「何がって?全てだ
お前の固定観念
ぶっ壊してやろうか?」
「貴様ーーーーっ!!!」
「来い、腐れ野郎」
俺は『理殺し』を構え、叫ぶ
「我、世の理を覆す者
空間を握り潰せ!!」
空間が歪む
頭上を飛んでいた
ヘリコプターが粘土の様に潰れる
だが、そいつは生きている
「朽ち果てろ」
低く、呟く
悪い、楓
それでも俺は
お前の兄貴なんだ
11年の始まり
春
桜の花が満開に咲き誇る季節でもあり、新しいスタートを迎える時期でもある
少し考えが年寄りっぽいが気にしないでもらいたい
俺はそのスタートの真っただ中にいる
俺こと、龍禅千歳は今年高校に進学した
しかも東京の公立校で偏差値1、2位を争う
不破岳高校にだ
別段そこまで優秀校に行くつもりは無かったが
中学の時の担任にこれでもかって言うほど、薦められたのだ
高校に行っても意味が無いのに、だ
自分の将来は決まっている、ていうか定められている
今と同じく、“組織”で働き続ける事だ
“組織”とは俺が8歳の時から所属している
戦闘集団で世間では
“悲しき双子達”と呼ばれている
その名の通り“組織”は全て双子で形成されている
なぜ悲しきという言葉がついているのかというと
“組織”がみな、訳ありの過去を背負っているからだ
その事があの出来事で広まり、悲しきという言葉がついたのだ
あの出来事で、俺も訳ありの過去を背負う事になってしまった
半分は自業自得。あと半分は“双子を狩る者”の所為だ
少し簡単に説明すると俺が“組織”に入って半年くらい
経った時に“双子を狩る者”が襲って来て
故郷である長野を廃墟の町とされてしまった
そこで俺は自分の両親を亡くし、双子の弟・楓から
俺への記憶を消し、東京に転校という形で来た
楓には辛い思いをさせてしまうと思うが、この選択は間違っていない
俺と関わっていた事がやつらにバレれば、楓も襲われかねないのだ
もう少し、傍にいたかったという思いは今でも拭い切れないままである
そう今更思っても仕方が無い事だが
ここで言っておくが俺はブラコンではない
暗い話もここまでとして、そろそろ校門が見えてきた
そう、俺は今通学路を歩いている
新しい制服はのりが利いていて歩きづらい
そして、校門に辿り着く学校を正面から見やると
白を色調としたものでいたってシンプルな造りをしている
創校200年と言う事で古からの風情は感じるが、流石に現代とだけあって
最先端技術がこの学校には駆使されているらしかった
それは学校に歩み寄ると眼に見えて分かる事だった
クラス発表が電子板で映されているのだ
「(こっからか・・・じゃ、校舎内はどうなってるんだ?)」
俺は内心そう呟いて電子板に歩み寄る
だが、人だかりができていて少々見えにくい
そこで、ひょいと背伸びすると易々と見えた
ついでに俺の身長は178cmである
比較的高い方だと思う。損する事は無い
すると、自分の名前を見つける前にすっかり慣れ果てた名前を見つけた
堺屋 秀
男みたいな名前だが女である
“組織”の一員だ
関西生まれで、常日頃テンションの高い奴である
1-C 15番らしい
それはいいとして自分の名前を探す
1-Dに視線を走らせると、1つの名前に引掛かった
28番 虎松 楓
虎松財閥の息子なのか、それとも弟の楓なのか
まだ、男か女かも分からないのに俺はそう思考を巡らせる
もう楓とは縁を切った筈だ、と眼を閉じて考え直し自分の名前を再び探す
そして、すぐに見つかった
3 5番 龍禅千歳
それを確認して校舎の中に入る
校舎は4階建てで1年生の教室はその4階にある
1-Dの教室に入ると、もう大半はいた
早速メアドを交換している者もいれば
中々声を掛けられず席にこぢんまり座っている者もいた
俺はそれを横目に見やり、自分の席に向かう
そして座り、一息吐いた途端
男女10人ぐらいが一気に俺に押し寄せて来た
「ねー、ねー、龍禅君!メアド交換しない!?」
「なー、龍禅一緒に野球部入んねぇ?
俺、原田雄也!よろしくな!
あっ雄也って呼んでくれよ!」
「龍禅君って、どっかのモデル?カッコイイね!
メアド教えて!私、桜井 春って言うの!」
「うわっ超イケメン!しかも運動能力高そう!
空手部入ろう!ワタシ、宇瑠瀬美影っていうんだ!」
「モデルじゃねぇーの?でも、綺麗な顔してんな。お前
ていう事で俺と一緒にサッカー部入ろうぜ!龍禅!
俺、青崎拓人つーんだ」
「一体どうしたら
美形の話から、サッカーの話になんだ!
理屈が通って無ぇぞ!アホ!あー・・悪りぃな、龍禅
こいつは昔からこうなんだ
俺はこいつの幼馴染で
松田 武だ、よろしく」
などなど自己紹介をされ、何がなんだか分からなくなり、苦笑していたら
「皆、ちょっと落ち着きなよ
龍禅君が困ってるじゃん」
自己紹介集団の後から、1人大人しそうな端整な顔立ちをした女子がいた
透き通った紫色の瞳、シルクのような滑らかな長い銀髪
その女子の一言で、一気に静まった
「お前まさか、笠宮 優か?」
俺は問う。この姿に見覚えがある
将棋で日本一を誇った天才少女だ
将棋だけとは、留まらず
チェスも彼女のチェックメイトの声で試合を終える
そして、成績優秀だと聞いている
「そうだけど、まさかって付く程の人間じゃないよ
少し目立ち過ぎたみたい、あー・・・それとね
メアド交換して仲良くなろうって、言ったのは私なの
ごめんね?」
そう笠宮が手を合わせて謝って来るもんだから、俺は慌てて
「いや、別に気にしてねぇよ?
とりあえず楽しそうなクラスで良かった」
俺は笠宮含めて、自己紹介しゅ・・・クラスメイトにそう微笑みかけた
そしたら、その場にいた女子達は赤面して固まり
男子も赤面こそしていないが、固まっていた
「ん?どうしたんだ、皆」
俺がその一言で沈黙を破った途端
「キャーッ!!!今のヤバい!今のヤバいって!!!」
「龍禅、お前は何人女子を落とせば気が済むんだ!?」
「は?へ?
別に落とそうなんて・・・「嘘吐けっ!!」
自分の何気ない仕草で男子全員の闘争心に火が点いてしまったようだ
一方で女子は頬を紅潮させながら
「龍禅ファンクラブ開こう!!」
などと大声で言っている
困る、やめてくれ
しばらく、そのどんちゃか騒ぎが続いたが
全員メアドを交換すると、席に着いた
そこでタイミング良く担任が入って来た
「おはよーさん
とりあえず、入学おめでとう
私の名前は芦屋 椿
見りゃ分かる通り、お前らの担任だ。よろしく」
と男気溢れる女教師だった
鋭い底冷えするような琥珀色の瞳
線を引いたような、形のいい唇
精悍な顔立ち
そして、一つにまとめた長い茶髪
しまいには両耳に着けている、髑髏ピアス
どこからどう見ても、不良である
「なー、芦屋ちゃんってさー元不良?」
そこで青崎がタメ語で聞く