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正宗イン・ワンダーランド

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 あっちの暁斗は今何をしているのだろう? 俺のいない世界で悲しんでいるのか、それとも、俺がこっちに来た先の時間は存在しないのか。

 ううん。

 そんなのアリエナイ!
 あの暁斗がいなくなるなんて!

 俺がこっちにきた時空座標に戻ればいいだけ。それまでは時間が凍結されているはずだ。

 けど、じゃあ、こっちの暁斗はどうなる? 俺に会わなかった時間は存在しなくなるのか? この空間と共に消滅してしまうのか?

 それこそアリエナイ!

 だいたい、時間は過ぎている。俺の体感時間としてサラサラと。砂時計は動いているんだ。そこにはちゃんと暁斗がいて、お互いの時間を共有しているじゃないか。ただ、ちょっと過去の記憶と、周りの空間が違っているだけだ。

 帰るんじゃなくて。
 統合したらどうなんだろう。ふたりの記憶、空間を混ぜてしまうんだ。

「暁斗、ちょっと待ってて」
 俺は暁斗の唇にきゅうってキスをした。
 軽くするつもりだったのに、暁斗は強く吸い付いてきて俺を放さなかった。ああ、あきと、あきと、あきと…………

 愛しくて愛しくて、何度もキスをした。
 甘い匂いもそのままだった。
 ハートのエネルギセンターが大きく開いて、お互いのエネルギーの交換がなされていた。

「まさむね。あなたの事がこんなに好きだったんだ」
 まるで思い出したかのように暁斗は俺にしがみついた。

「そうだよ。俺と暁斗は永遠の愛を誓った運命の恋人だからね」
「うん、そうだね。運命の恋人…………もう離れないよ」
「うん」

 そのまま抱き合ってベッドに倒れこんだ。キラキラした胸のエネルギー、エメラルド色のエネルギーが密に交換している。気持ちいい……その快感に浸りながら俺たちは眠ってしまった。


****************************************

 ごおぉ
 激しい風がベランダの屋根を、激しく揺らす。遠く、どこかでバタン! て何かが飛んでいく音がした。

 ああ、今日は風が強い。
 けど、俺はこういう日が好きだ。
 ベッドの中で暁斗とぬくぬくと抱き合えるから。

 手を伸ばすと甘い暁斗の匂いがして彼の肩に触れた。そのまま彼を抱くと体を密着させた。ああ、愛しい少年は俺の腕の中で眠っている。なんて幸せなんだ。

 そして不意に気づいた。
 今まで違う世界にいたこと。
 徐々に徐々に、記憶が蘇ってきた……

 目を開けてじっと暁斗を見た。黒髪の美少年は、スースーと寝息をたてて寝ている。
 はあ、よかった。俺の腕の中に暁斗はちゃんといる。

 今度はベッドサイトの灯りをつけて部屋を見わたした。うん、パラレルワールドに行く前の俺の部屋だ。暁斗と俺のために母さんが改装してくれた新居。よかった……戻って来られたんだ。

 けど。

 あの暁斗はどうなったんだろう。

「まさむねぇ……」
 暁斗が手を伸ばして俺を求めた。どうやら少し目が覚めたようだ。灯りのせいかな。
 暁斗の求めに応じるため俺は彼に向き直って彼の腕に抱かれた。

「ああ、まさむね」
 半分眠りながらも、抱きしめる手に力がこもっていた。何度も俺の名前を呼びながら頬や首に、自分の頭をつける。

「あきと……愛している」
「うん。もうどこにも行かないでね」

 数秒。
 間があいた。

 ゆっくりと目を開けた暁斗。じっと見つめあった。

「大丈夫だよ。オレもちゃんといただろ? 」
「おぼえてるの? 」
「……なんとなく……夢……みたいな感じだけど。オレは正宗と混じっているからね。正宗が見た世界はオレの世界でもあるんだ。あっちの暁斗ともリンクしていたし……結局、オレは正宗ともあっちの暁斗とも同時にいたんだ」

「……そうなの? 」

「そうだよ。混じってるんだ」
 暁斗はそう言って俺をぎゅって抱きしめた。

 そうか。

 ふたつの世界、ふたりの記憶を、統合しよう、混ぜよう、って思ったのは、ある意味達成できたんだ。

 けど、よかったのかな。あっちの暁斗、これでOKなのかな。

「暁斗は幸せだったらいいんだよ」
「だって、こっち来たら鏡子伯母さんいないよ。それでもいいのかな」

「……暁斗の幸せは、正宗といることなんだよ。それはどの暁斗も同じなんだ。……で、どの暁斗が一番正宗を愛しているか、って言えば、エネルギーを一番かけたこの世界、ってことになるんじゃないかな? 過した時間、密度、思い……トータルに強い。だから、この世界に吸収されてしまうんだ」

「ほんと? 」
「さあ……けど、いつもオレは正宗のそばにいる。どんな世界にいても」
 微笑んだ暁斗は綺麗で、マリアさまみたいに慈愛に満ちて、ひまわりのように暖かかった。

 大好きだ。

 その微笑が。
 暁斗のすべてが。

 俺は目を閉じた。
 綺麗な暁斗にキスしてもらうために。
 彼の密なエネルギーが近づき、きゅって唇を吸われた。そのままお互いに、ちゅ、ちゅって吸いあった。キスって相手の愛を吸いあう行為なのか。心がとても気持ちいい。

 ゆっくりと目をあけて見つめあった。
 美しい……
 きっと俺も同じような顔をしている。今の俺は美しいと思う。
 暁斗は美しいままでにっこりと笑った。

「まさむね、オレ、セックスしたくなっちゃった」

 こんな美の中で、そんな気になれる暁斗に俺はびっくりした。と同時に、下半身があっという間に反応したのに笑いそうになった。

 どうやら、暁斗の申し出は俺の希望でもあるようだ。

****************************************

「パラレルワールドから帰るヒントは、『橋をつくる』だったみたい」

 あっちの世界で気になっていた、俺の部屋にあった不思議本を開いて、気になる箇所をチェックしていた。
 そこには、パラレルワールドに入り込んだ人のエピソードが載っていた。そして、その対処法も。

 簡単にいえば二点を意識して、つなげる、てことだけ。

 二点というのは、元いた世界、と、迷いこんだ世界。
 つなげる、ていうのは『橋』をかけると意識すること。

 それを意識していたら、その『橋』にエネルギーが投下されて、その橋をつたって帰ることが出来る……らしい。

 ま、本当かどうか分からないけど。
 俺の場合は、こっちの暁斗とあっちの暁斗が二点になって、橋がかかったようだ。彼に対する思いはハンパないからエネルギーは勝手に注がれていたんだろう。

 もし、あなたがパラレルワールドに入りこんだら、この方法を試してみるのも、ひとつの手かもしれない。おためしあれ。           (完結)