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キラーマシン・ガール 前編

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 「あ、そういえば。今日は白雪ちゃんがお見舞いに来るって話を聞いたけど。何時頃に来るのかな」
 もうそろそろ正午にさしかかろうかという頃、窓の掃除をしながら日向が呟いた。
 「白雪ちゃん?」
 「あれ、まだ顔合わせてなかった?いっつもセーラー服着てるちっちゃくてかわいい女の子。わかんない?」
 昨日操の隣にいたあの子のことか。いっつもかどうかは知らないがセーラー服を着ていたから彼女で間違いないだろう。そういえばまだ名前を聞いていなかった。白雪……変わった名前だ。
 「あぁ、多分昨日会ったと思います」
 「なんだその曖昧な認識は。にしてもやるね唯史くん。車体の下敷きになりそうだった白雪ちゃんを守ったんだって?あの子すんごい感謝してたんだから」
 「でも僕、あの事件の時のこと全く覚えてないんですよ。だからあんまり実感が湧かなくて……」
 「覚えてないというと、どのあたりから?」
 「爆発が起こって車両が傾き始めるところまでならなんとか。次に目が覚めたのはこの部屋です」
 「ふーん。あんだけ大きい事故ならそんなこともあるのかなぁ。まー、いいじゃない結果オーライで。命は助かったしついでに女の子も救って性奴隷ゲット」
 「何言ってるんですか……」
 「助けたお礼にあんなことやこんなことを要求されてあれよあれよという間に……ってのは王道の展開でしょ?鬼畜野郎?」
 「一体どこの王道の話ですか。というか、鬼畜野郎ってもしかして僕のこと言ってます?」
 日向の言った通り、しばらくすると白雪が病室に現れた。昨日と同じセーラー服姿だった。
 「こんにちは。あとこれ、ついでに持っていってくれって。昼食です」
 「おお、ありがとう」
 全く体を動かしていないのに腹はペコペコだった。トレイがベッドテーブルに置かれると僕はすぐに昼食に手を付け始めた。
 「白雪ちゃんは唯史くんとは昨日も会ってるんだって?」
 「はい。でも昨日は重要な話がたくさんあったので全く話すことができなくて」
 「じゃあ話すのは今日が初めてだ」
 日向は何故かいやらしい笑みを浮かべていた。
 「……なんですか、ニヤニヤして」
 「んー?べっつにー?ほらほら白雪ちゃん」
 「え?えと、それじゃまずは自己紹介から。私、内海白雪って言います。名前の方で呼んでくれるとうれしいです」
 白雪がペコッと頭を下げた。よく頭を下げる子だ。
 「ぼく、しのみやただし」
 「こら、口の中のものちゃんと飲み込んでから喋りなさい!」
 「……ふいまふぇん」
 「わかればいいのよ。わかれば。……ふむ、年上の利を使って母性キャラを目指していくというのも悪くないわね……」
 思ったこと全部口に出さんと気がすまないのかこの人は。
 「あ、そういえば唯史さん。昨日の夜のことなんですけど、なにか体に異変とかありませんでした?」
 「ああ、大変だったよ。左肩と左足の付け根がすごく痛んで眠れなかったんだ」
 「なぬ、そんなことが。まず始めに私にいいなさいよそういうことは!」
 「向井さんが僕に考える暇を与えないくらいのスピードで話続けるからどっかいっちゃったんだよ。朝にはまったく痛んでなかったし」
 「あの、その痛みはですね、機械義肢の性質上避けられないものなので心配しないでください。義肢の定着が順調に進んでいる証拠でもあります。毎晩やってきますが徐々に痛みは弱くなっていくはずですよ。私も機械義肢なので最初の辛さはよくわかります」
 「へぇ。白雪もなんだ。体のどの部分?」
 「手と足と、内臓を幾つか。だからその体で困ることがあったら力になれると思います。あ、あとあの」
 白雪は落ち着きのない動きで僕の目をチラチラと見ながら話し続ける。
 「これは昨日の内に言っておくべきでした。事故の時は、助けて頂いて本当にありがとうございました」
 一際深く頭を下げる白雪。
 「いや、結局僕も助けてもらっちゃったしおあいこだよ。こっちこそありがとう」
 「あ……助けてくれたこともそうなんですけど、その時の唯史さんの言葉がすごく嬉しかったというか救われたというか……それについてもお礼を言いたかったんです」
 もじもじと恥ずかしそうにそう言った彼女の頬は赤く染まっているように見える。
 「言葉……?」
 思い出せない。事故当時の記憶は電車が横転した直後から途切れてしまっている。
 「白雪ちゃん、唯史くんは事故の時の記憶が残ってないみたいなのよ」
 「え、あ、そうだったんですか……」
 「ごめんね。自分でもよくわからなくてさ」
 「いえいえいえいえ!謝らないでください!そんな大したことじゃないので!」
 「あっはっは。白雪ちゃん動揺しすぎー」
 「してません!どど動揺なんて……!」
 慌てて否定する白雪の頬はやはり真っ赤に染まっていた。意外と愉快な子だった。
 「にしても、やっぱり人が増えると賑やかだねー。私達二人で話しててもすぐ話題無くなっちゃうから白雪ちゃんがいると助かるよ!」
 「無くなったって一人で喋ってるじゃん……」
 白雪が来る前の方が賑やかだったようにすら感じる。
 「はぁ……確かに、ずっとこの部屋から出られないのはかなり退屈ですよね……」
 「僕、これからどうなるんだろう……」
 「どうでしょう……操さん次第ですね」
 「……さっき向井さんから聞いたんだ。この体になった今、元の生活に戻るのは難しいだろうって。やっぱりそうなのか?」
 それを聞いた白雪は驚いた様子で向井さんの方を向いた。
 「隠したってしょうがないでしょ。いつかはわかることなんだから」
 「それはそうですけど……」
 「白雪、機械義肢になった僕はこの先どんな扱いを受けるんだ?君も機械義肢なら答えられるだろ?」
 僕の質問に白雪は目を伏せ、言い辛そうにゆっくりと答えた。
 「……機械義肢というのはまだ未完成の技術です。定期的な整備は欠かせないし、それを出来る人は操さん以外にいません。操さんに縛られていると言い換えることも出来ます。私達は操さんの言うことはなんでも聞かなければならないんです」
 「何でも?」
 「何でもです。操さんが命令すれば何でも。少なくとも私はそうです」
 何でも。僕が生きてきた世界とは断絶されたこの裏社会のことを何一つ知らない僕にとって、それの言葉はあまりにも恐ろしすぎる響きだった。
 「こんなことになるなんて思ってなかった……私は唯史さんを治して欲しい、って言っただけなのに。まさか機械義肢を使うなんて」
 「…………」
 「唯史さん」
 白雪が真正面から僕の顔を見つめる。
 「私、唯史さんの力になりますから。同じ体を持つ者として。唯史さんを巻き込んでしまった張本人として。必ず元の暮らしに返します。約束します」
 「白雪……」
 「まぁ。今唯史君にできることは体を休めてより早く元気になること!それだけだよ!うんうん!」
 日向が満面の笑みを浮かべてそう言った。色々とついてないことが立て続けに起こったけど、どん底ではないようだ。この二人に出会えたことに感謝しようと僕は思った。



後編へ続く