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七ケ島 鏡一
七ケ島 鏡一
novelistID. 44756
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グランボルカ戦記 1 紅と蒼の姫

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 よほど侯爵に傾倒しているのだろう。彼の話をするオリガの弁は熱っぽさを帯びていく。そんなオリガとは対照的に、リュリュのテンションはどんどん低くなっていく。
「まあ・・・のう。いや、頼ってここまで来ておいて言うのもなんじゃが、本当に叔父上で大丈夫なのかのう・・・少し遠くても兄上のところまで行ったほうがいいような気がするのじゃがのう。」
「大丈夫・・・だと思います。多分、きっと。」
 リュリュの不安そうな表情と声につられて、先ほどまで自信満々だったオリガの態度も幾分か頼りないものになる。
「あらあら。あなたの侯爵に対する信頼というのはその程度のものなのかしら。」
「いや、すごい方だというのは間違いないんだ。統治の手腕や、昔皇帝陛下の親衛隊を務めたほどの剣の腕。人柄だって、身分や性別問わず別け隔てなく接してくださるし、素晴らしいと思う。だけど・・・いや、口で言うより会ってもらったほうが解ってもらえると思う。とにかく、アリスは実情を知らないからそんなことを言えるんだ。」
「あら、実情は知っているわ。この街のこの状況が実情なのでしょう。この街の活気を作り出せる領主がそんなに悪い人だとは思えないのだけど。」
「そういうことじゃなくて・・・何と言うか。」
「・・・そうじゃな。まあ、叔父上がダメでも従姉妹のジゼル姉様が力になってくれるじゃろ。」
 そんな話をしながら三人が市場に差し掛かった時だった。通りの奥のほうから怒鳴り声が聞こえてきた。

「おうおう、婆さんよ。昨日この屋台で買ったりんごが腐ってたんだよ。一体全体どういうことだ!」
「も・・・もうしわけございません、すぐにお取替え致しますので・・・。」
「取り替えますじゃあねえだろ。腐ったりんごで兄貴が腹ぁ下しちまったんだよ。いったいどう責任を取ってくれるんだ。」
「どうといわれても・・・。」
 三人が現場に駆けつけてみると、悪そうな4人組がリンゴ売りの老婆を取り囲んでいちゃもんをつけている最中だった。
 4人組は腰に短刀を帯びていて、そのうちの1人は鞘から抜いた刀をギラギラと見せびらかすようにして、周りの人達を威嚇していた。
「・・・警備の兵は来ないのかのう。」
 リュリュが小さな声でオリガに尋ねる。
「この時間は、街の反対側を警らしているはずです。おそらくそれを知っていての計画的な犯行でしょう。」
「ふむ・・・オリガよ。お主、奴らを取り押さえられるか?」
「あの位置では無理ですね。一人倒している間に、あのおばあさんを人質に取られてしまいます。」
「むぅ・・・。アリスと二人がかりならばどうじゃ?」
「二人がかりでも、向こうは四人いますからね。オリガの言うとおりあのおばあさんに危害が及びます。」
「ふむ・・・さて。どうしたものか。」
 二人の話を聞いて、リュリュが思案しようとした時だった。
「お待ちなさい!」
 と、よく通る女性の声が市場に響き渡った。
「何だ何だ?」
 男たちが声のした方を振り返ると、人垣が割れて、眉の濃い、凛々しい顔立ちの女性が立っていた。
「なんだてめえ!」
「余計な口出しすっとぶん殴るぞ!」
「面白い戯言ですわね。私をぶん殴る?ふふん、仮にもこの街の統治者たる私を?そんなこと言っていると・・・」
 少し顎を上げて、顔を歪めてバカにしたような、あざ笑うような表情を浮かべて女性は親指で首を斬るような仕草をした。
「・・・その首、落としますわよ。」
「ふ・・・ふざけんなこらぁ!てめえみたいな小娘程度に俺たちがどうにかできるとでも思ってんのかぁ!」
 そう言って剣を抜いていた男が斬りかかろうと上段に剣を振りかぶろうとした時だった。
 パキっと軽い音がして、男の持っていた剣が折れ、地面に刀身が転がった。
「て、テメエ、何してやがる!」
 剣を持っていた男が振り返るとそこには金属製の目の荒い櫛のような物を持った、黒髪をポニーテールに結ったメイドがしゃがんでいた。
 どうやら手に持っているソードブレイカーで、男の剣に細工をしていたらしい。
「ありゃ。バレちゃった・・・ねっ、と。」
 メイドはそのまま深く沈み込み、低い姿勢を取って男の下半身に当身をしバランスを崩した。そして男がよろけたところを肩に担ぎ上げると、そのまま後ろに倒れるようにしながら男を頭から地面に落とした。
「ひぇ・・・化物メイド・・・!」
「まあまあ、待ちなよ。そんなに慌てて逃げなくても。仲間を置いて行くなんて薄情だなあ。」
 メイドは仲間の惨状を見て逃げようとした男の襟首を掴むと、そのまま後ろに引き倒した。
「た、助けてくれ!」
「そんな人を化物か何かみたいに言わなくたっていいじゃない。」
 引き倒された男は恐慌状態になってしまい、手足をバタバタと動かして逃れようとするが、メイドの力の方が強いのか、うまく重心を抑えられてしまっているのか、立ち上がることもできない。
「に、逃げるぞ。」
「お、おう!」
 残った二人が逃げようと、短刀を抜いて振り回しながら先ほどのドレス姿の女性の方へと走りだす。
「どけどけ!」
「怪我するぞ!」
 短刀の剣風に押されて人垣は先程よりも広く割れるが、女性は避ける素振りもなく、その場で優雅に笑いながら、扇子を開いて扇いでいた。
「あまり、私の街で無体なことをするのであれば・・・」
 男たちとのすれ違いざま。金髪の女性は扇子を閉じて横薙ぎに一閃した。
「・・・首が飛ぶ。と、申し上げましたわよね。」
 そう言って再び金髪の女性が扇子を開いてひらひらと仰いだ時、逃亡を企てた二人は喉元を押さえて地面を転がりまわっていた。
「首が飛ばなくてよかったわね。さて、誰かこの無法者たちに縄をかけていただけないかしら。警備の兵に渡す前に逃げられてしまうと、後々厄介なことになりますわよ。」
 女性がそう言うと市場の男たちが、慌てて屋台から縄を持ってきて4人の男たちを縛り上げた。
 その様子を満足そうに笑って見届けると、女性はりんご売りの老婆の方へと歩み寄った。
「怪我はなかった?」
「は・・・はい。ジゼル様のおかげです。ありがとうございます。ありがとうございます。」
 ジゼルと呼ばれた女性は地面に頭を擦りつけるようにして礼をいう老婆の手をとって顔を上げさせる。
「そんなことをしなくていいのよ。貴女は被害者なのだから。なんにせよ怪我がなかったならよかった。でも、今後はもう少し警らにでる憲兵を増やさないといけないかもしれないわね。こんな輩が湧いて出るようじゃ、皆安心して商売もできないでしょうから。・・・いえ、それよりいっそ、市場に何人か常駐させましょう。」
「も、もったいないお言葉でございます。へぇ・・・。」
「もったいないなんてことないのよ。貴女やこの街に住むすべての人のお陰でこの街は回っているのだから。・・・あ、そうだ。貴女の売っているりんご、ひとついただけるかしら。ここへ来るまで人を探して歩き回っていたせいで喉が乾いてしまったのよ。」
「そんな、こんなリンゴをジゼル様のお口に入れるなんてそんなおそれ多い。」
「あら、じゃあ貴女はあの男たちの言うようなリンゴを売っていたということ?それなら私は立場上、貴女も罰しないといけないのだけど。」