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おやまのポンポコリン
おやまのポンポコリン
novelistID. 129
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命の価格

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【 命の対価 】

 学校から帰るとテーブルの上にボデチャのチョコレートがあった。
「お母さん、これ食べていい?」
 私は、どうせ来客用だろうと思いつつ、一つくらいはありつけるかと思って聞いてみた。

「え、ええいいわよ。だってそれは香織のだもの」
 言いにくそうに答えたお母さんの言葉に私の手は止まった。
 おかしい・・・。そんなの絶対ありえない。
 振り返るとお母さんはそそくさと台所に消えた。

 怪訝そうな表情の私に声をかけてくれたのは、新聞で顔を隠していたお祖父(じい)さんだった。

「本当だよ香織。それは裏の西嶋さんがおまえにと買って来たものだ」
「西嶋さんが? どうして?」
 とりあえずチョコレートをひとつ口に入れながら私は記憶をたどった。
 私は西嶋さんに感謝される様な事でもしただろうか・・・。

 しかし、お祖父さんの口から出た次の言葉は衝撃的だった。

「実はな、事故があったんだ・・・。西嶋さんの奥さんがブレーキとアクセルを踏み間違えてな・・・。それで、お前が可愛がっていた茶乃吉が死んだ」
 私は口に含んでいたチョコレートをポロリと落とした。
「茶乃吉だけじゃない。チビ茶も茶介も死んだ」

「嘘でしょ。茶乃吉が・・・」
 私は絶句した。
 
「残念ながらそうなんだ。ワシにはどれが茶乃吉なのか茶介なのかは分からないが、8匹の内救えたのは3匹だけだった」
 お祖父さんはそれだけ言うと、また新聞で顔を隠した。

 涙がポロポロこぼれた。
 あんなに可愛がっていたのに。
 まだ飼って3ヶ月だけど、近頃では私の顔を見ると寄って来てくれた。
 そんな茶乃吉が死んでしまうだなんて・・・。

 夢なら覚めて欲しい。

 そう願いながら裏口に回ると、庭の片隅に壊れた植木鉢が寄せてあり、その隣には・・・、

 水槽が元の形も分からないほど粉々になっていた。

「物音に気付いたお母さんがすぐに飛び出して、なんとか3匹だけ救出したんだ」
 お祖父さんは丼鉢で泳ぐメダカを見せた。
 そこに茶乃吉がいた。
 どうやら死んだのは茶介や茶一郎のようだったが、悲しい事に違いはなかった。

 私がひとしきり泣くのを待って、お祖父さんが声をかけた。
「悲しいのは分かるが、泣いていても茶介達は帰ってこない。だとすれば、残ったメダカ達を守ってやるのもお前の務めだ。新しい水槽と、メダカの兄弟を買いに行こう」
 
「茶介はお金なんかじゃ買えないよ!」
 私は思わずお祖父さんに声を荒げた。
 だいいち、私が飼っていたメダカは親戚の太一兄さんが川ですくってきたものだった。

 金魚じゃあるまいし、メダカが街のペットショップで売ってるわけがない。
 そう思っていたのだが売っていた。

 メダカは高価な熱帯魚の隣で、その餌用として特売されており、1匹10円だった。

 茶乃吉達って安いのね・・・。


    ( おしまい )
作品名:命の価格 作家名:おやまのポンポコリン