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「舞台裏の仲間たち」 76・最終回

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 「ねぇ!」

 ちずるがテーブルの上に整っている宴の様子に目を置いたまま、
座長を呼びます。
ワイングラスが2個並んだ横には、赤いリボンが結ばれたワインが一本、
氷の中に傾けられて置かれています。
その隣には、赤いリボンが掛けられた大きな包みも置かれています。
あいつら、いったい、いつのまに・・・・
それらを覗き見る座長が、一枚のメッセージカードを見つけました。


 「お帰りなさい、われらがちずる。
 生命ある限り、座長と私たちの心は常に一緒です。
 素晴らしきその再婚を祝して。」

        座員一同

 癪な真似を・・・・
と座長がいいかけた隣で、ちずるが歓声を上げました。
ちずるによって開封された包みからは、お揃いのピンクのパジャマが
出てきました。
この歳で、さすがにこの色は派手すぎるだろう・・・・と覗いていると
もうひとつの小さな包みが、さらに下から出てきます。
開封してみると、ブルーとピンクの赤ちゃん用の可愛いうぶ着が
出てきました。


 「なんだ、これは、あいつら・・・・」

 「座長・・・・
 すべてをあきらめるなという、
 みんなからのメッセージが入っています。


  『限りある生命と、限りない未来のために、俺たちはひとつ。
 万に一つでも可能性が有れば、前に進もうと言うのが劇団創設時の
 座長からのメッセージでした。
 10年間の活動休止の時を経て、劇団は奇跡の復活を遂げ、
 見事に最初の奇跡を作りだしました。
 同じく10年の時を経て、一度はあきらめたはずの男女の縁(えにし)が、
 これもまた、2度目の奇跡ともいえる復活を遂げてみせました。
 2度にもわたるこの奇跡は、他ならぬ座長の生命力、そのものです。
 われらは3度目の奇跡を信じて、
 これらのプレゼントを心をこめて用意をいたしました。
 一人よりも二人、二人よりも三人。
 3度目の奇跡はまじかです、幸運はすぐそこまで来ています』
 
  なんということを・・・・
 座長、劇団員の皆さんが、絶対にあきらめるなと大合唱をしています。
 ほんとに、ユニークで優しい人たちばかりです。
 座長、これから先が大変です。
 病気になんかに、負けてはいられないですね」

 「その通りだ・・・・
 負けてたまるか、病になんか。
 頼むぜちずる、俺も頑張るから、俺の人生を支えてくれ」


 座長が見上げる天窓からは、明るい月の光が差し込んでいます。
明治の末期に建てられたのこぎり屋根の稽古場は、たった二人を残して
また、再び静まり返りました。
ちずるがワインの栓を抜き、グラスへ注ぎます。


 「ねぇ、私たちの生まれた年と同じ年代物のワインだわよ。
 私たちのために、わざわざ、見つけ出してくるなんて、
 どこまでいっても洒落ているわねぇ、
 わが劇団員たちは・・・・」

 芳醇なワインの香りが、静まりきった稽古場の中に
ゆっくりとした余韻を引いて、少しずつひろがりはじめてきます。
あと2カ月余りでこの年も終わり、時代は、やがて1980年代の後半に
はいろうとしています。

 (完)