「舞台裏の仲間たち」 76・最終回
「さて、もうひとり。
茜ちゃんの本読みを最後まで付き合ってくれた、本日の功労者、
雄二君にも吉報です。
さきほど、座長からも許可が出ました。
今回の碌山役は、大熱演をしてくれた雄二君で決まりです。
ただし・・・良く聞いてくれよ、ただしに注意点がついています。
本読みの能力は認めましたが、肝心の演技力はまだ、
まったくの未知数につき、
演技次第では、取り消しもあるそうです。
とりあえず、碌山役は内定ということで、よろしく!」
「それでも結構です、がんばります!
石川さんに、やきもちを焼かれない程度に」
「ば~か、余計な心配は無用だよ、
どうあっても結ばれない運命なんだよ、碌山と黒光は。
余計な心配はしないで、演技力を磨くことだけに、
君は専念をしてください」
再び西口に指摘をされて、雄二がしくじったとばかり頭を掻いています。
そんな雄二の背中に回ってきた時絵が、舞台担当の西口と小山にも
声を掛けます。
「そろそろ独身組と、舞台担当はこの場から撤退したいと思います。
そこの失恋した君、小山君。
送ってあげるからもう帰りましょう、
せっかくの酒宴の予定でしたが、もう時間も遅い事ですので
めいめいに手土産にしてもらって、ここは
解散ということにいたしましょう」
「時絵さん、それは振られた者どうしの、
敗者復活と言う可能性もあると言う意味でしょうか?」
小山君がその言葉に素早く反応をして、にこやかに時絵に語りかけます。
時絵もにっこりと笑って、しなやかに言い返します。
「わたくしよりも、5歳の坊やがあなたを気にいってくれたら、
可能性は、まったくゼロではありません。
でも、きわめて我儘な母親が育てましたもので、かなりのやんちゃで
極めて気難しい男の子です。
手なずけるのは至難の業だとは思いますが、
それでも是非にと言うのであれば、チャレンジをしてください、
お友達からはじめましょうか?」
「願ったりです、時絵さん。
ぜひ、立候補をしたいと思います」
「おい、社交辞令だよ・・・・にぶいなぁ、お前も」
傍らで西口が爆笑をしています。
照れ笑いの小山君の背中を押しながら、その西口が座長を振り返ります。
「座長、そういうことなので、
時絵に送ってもらいながら、『もてない組と振られた男女』は、
早々に退散をいたします。
そちらに残った3組のカップルに、これ以上あてつけられないうちに
さっさと消えた方が、どうやら身のためのようですからね・・・・
では座長、あらためて稽古の日程などを後ほど入れてください。
病気の件は、僕らも、しかと受けたまわりました。
たぶん・・・・
ちずるさんが来なくても、あなたは病気に真正面から
立ち向かったと思います。
そのことは、ここにいるメンバーの全員が確信をしていると思います。
あなたが、それほど強い意志の持ち主であることを、
僕らはよく知りつくしています。
でもそれ以上に、ふたたび座長がちづるさんと共に
歩き始めたことに、心から安堵をしているし、また喜んでいるのも
これも事実です。
あらためてお帰りなさい、ちずるさん。
そして俺たちの座長の健康管理を、あらためて皆を代表して
お願いをします。
では、挑戦的な本を書く順平君、そしてレイコさん。
今日は、俺から見ても極上の女に見えた茜ちゃん、ついでに石川くん。
君らも早々に退散をして、
ちずると座長に静かな夜をプレゼントしてあげたまえ。
まったくもって・・・・
一晩に二回も座長に神経を使うなんて、
今夜は一体どうなっているんだろう。
それでも・・・劇団と座長をめぐる事態は、
全体として良好な方向へ向かっていることに
まずは、全員にそれぞれの感謝をしたいと思います。
そう言う訳だ、諸君。
では先陣を切って、俺たちは帰ります」
作品名:「舞台裏の仲間たち」 76・最終回 作家名:落合順平