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ACT ARME4 あたしの力

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そう言って笑いかけると、ようやくフィーナも笑ってくれた。
「じゃ、行こっか。」
「え・・・この人たちは?」
「さぁ?ほっとけばいつか起きるでしょ。それより早くしないとケーキバイキング遅れるわよ?」
「あ、待って。ケーキバイキングは今日一日中あるから大丈夫だよ。」
今の一件も、絡まれた段階で孔を使って最初に脅しておけば、路地裏に連れ込まれることはなかったかもしれない。
それをしなかったのは、アコが戦いを好まないということもあるが、一番の理由は。
「・・・自分の力を憎んでいるんだよ。」


アコは、何やら複雑な幼少期を送っていそうなレックや、過去そのものを知らないルインと違い、周りと比べやんちゃ、もといおてんばなごくごく普通の少女だった。
ただ一つ、大きく違うところは、アコはほかの人と比べ、尋常でない程の孔の持ち主であったこと。
それは別に、アコの先祖に伝説を残すような孔の使い手がいたわけでも、アコに絶望を味あわせぬため、誰かが何度も同じ時間を繰り返した結果、因果が束ねられたわけでもない。
ただ単に、そういう体質だったのだ。
強すぎる孔を持つ者は、時として争いやその他よからぬ事件に巻き込まれるケースがある。アコの両親も、自分の子供がそういった運命を辿ってしまうのではないかと、やはり戸惑ったようだ。
だから両親は、アコに必要以上に孔を使ったりしないよう言い含めていた。
アコは、幼い時には両親の忠告の意味が分からず、それでも言いつけは守っていた。
だがある日のこと、アコは友達と些細なことで喧嘩し、その時に少しだけ、本当に少しだけ孔を使った。

その後すぐに救急車が呼ばれ、あたりは騒然となった。
幸い、ただの打撲で、何日か経てばまた直ぐに元気に動き回れるようになったが、この一件は、アコに大きな衝撃を与えた。同時に幼心に悟った。
自分には、簡単に人を傷つけることができる力があるのだと。そして怯えた。もしかすると自分は人殺しになってしまうのではないかと。


アコがそのまま自分自身に恐怖し、塞ぎ込むことがなかったのは、両親のおかげだった。アコの両親は、事故が起きてからずっとアコのそばに居続けた。そしてずっと囁き、教え続けた。
「アコ、あなたはとても優しい子ね。お母さんもお父さんも嬉しいよ」と。
「アコはきっと、とても優しい魔法使いになれるよ。だから、きちんと魔法を覚えられるまで、お父さんたちと練習しよう」と。

この言葉が救いとなり、立ち直ることができたアコは、今度こそ他人に力を使わないことを心に誓った。
それと同時に、家で孔を制御する練習を始め、両親に対してはその成果を逐一見せた。
何か一つ出来ることが増えるたびに見せてくれる親の笑顔が、アコ何より嬉しかった。
あの喧嘩の日により、アコから遠ざかっていった友達も、長い日々を費やしたが、次第にまた一緒に遊ぶようになった。
そして数年が経ち、アコも成長した頃だった。
アコがいつもの如く友達と遊び、その帰り道。
「君、ちょっといいかな。」
後ろから声をかけるのが聞こえ、振り向くと、もうすぐ大人の仲間入りをしそうな、柔和な顔をした男が立っていた。
いきなり見知らぬ人間に話しかけられ、警戒するアコに、男は優しく問いかけてきた。
「君は、魔法使いになりたいのかい?」
そんな質問をされ、アコは頷く。
そしたら今度はこんなことを言われた。
「じゃあ、私が君を魔法使いにしてあげますよ。」
この言葉に驚いた。
「ほんと?」
「ええ、本当です。あなたはきっと、どんなことでもできる魔法使いになれますよ。」
笑顔でそう返され、アコも嬉しくなる。
きっと、この人について行けば、皆を幸せにできる魔法使いになれる。それは、アコが心から望み、そしてあの日からずっと夢見続けてきた願いだった。
でも・・・
「ごめんなさい。お父さんとお母さんに話さないといけないの。」
「そうなんですか?」
「うん、あたしが一番自分の力で幸せにしてあげたいのは、お父さんとお母さんだから。」


そのアコの言葉に、男は少し考え込み、なら私もあなたの両親と話をさせて欲しいと申し出た。
それを了承したアコは、男を家に連れ帰った。
両親は、アコが連れてきた男を見て訝しげな表情を向け、来訪した理由を聞かされると、さらにその色を濃くしたが、折り目正しい男の態度に、とりあえず部屋に通した。
アコはというと、そんな両親の様子には気づかず、もしかすると自分の願いがもうすぐ叶うのかもしれないと、胸を弾ませつつ、自室に入った。
そしてうたた寝していた時、リビングから母親の悲鳴、父親の怒号と、激しい騒音が耳に飛び込んできた。
「お父さん!?お母さん!?」
慌ててリビングに戻るアコ。そして、彼女が目にした光景は。


真っ朱だった。テーブルも、床も、カーペットも、お母さんがどうしても気に入ってしまったので、高い値段に目を瞑り、無理やり買ってしまったソファも。すべてが朱に染まっていた。
ただ、一番朱く染まっていたのは、アコが一番に幸せにしてあげたいと思っていた両親と、その体に突き刺した刃を引き抜いた男の手だった。


「お父・・・さん?」
自分でも驚くほどか細い声が出た。でも、例え耳をつんざくほどの大声で叫んだとしても、父親から声が返ってくることはない。
「お、母・・・さん・・・・・・・。」
今度は震える声が出た。だが、その恐怖を和らげてくれる母親は、一寸たりとも動かない。
体が震える、声が出ない。助けてくれる人は、いない。
男がこちらを振り向いた。会った時と全く変わらないはずの笑顔を貼り付けて。
「おや、見られてしまいましたか。すみません。少し過激だったかもしれませんね。」
会った時と、何一つ変わらないはずの声で話してきた。
「あなたの両親に、どうしてもあなたを連れて行ってはダメだと、頑としてこちらのお願いを受けてくれなかったので、つい実力行使に出てしまいました。」
そして、ゆっくりと一歩ずつ、アコに向かって歩み寄ってきた。
「でも結果としては問題ないでしょう。これであなたは何の気兼ねもなく魔法使いになれる。」
魔法、使い?
「さあ、あなたの願いを一緒に叶えましょう。」
これが、あたしの願い?
あたしの願いのために、お父さんとお母さんは・・・?
男は、あと数歩先のところにいる。
いや、来ないで。

いや・・・・・・・・・いや・・・・・・・・・!









「いやぁぁぁあぁぁぁああぁぁぁぁああああああ!!!!!!!」


その絶叫は、近隣の家にまではっきりと届いたという。だが直後、その絶叫が虫の羽音と同列に語れてしまうほどの爆音が響いた。

住民からの通報により、すぐさま治安部隊が駆けつけた。
そこに広がる光景は、残骸だけだった。
数分前まで人が住んでいたとは、いや、これがかつて家だったということすら判断できないほどの残骸。
その中からアコの両親の亡骸が発見された。
だが、アコと、この残骸を生み出した男の姿はどこにもなかった。


いや・・・・いやだ。
怖い・・・・・怖い・・・・怖いよ。
闇夜の中、アコは逃げ続けた。あの男から、自分の願いとそのための力から。
あたしのお父さんとお母さんを殺した力から。
作品名:ACT ARME4 あたしの力 作家名:平内 丈