花鳥風月 向日葵
「あなたの願いを、叶えましょうか?」
ショーウィンドーに映る自分の姿にがっかりしていたひなたに、ささやくように男は言った。
ひなたは男がショーウィンドーに映る世界にだけいるもののような感じがした。
振り向いてもそこには男はおらず、またいつもの現実に戻るだけ、そんな気がした。
男は一歩近づいて、ショーウィンドーに映るひなたをじっと見つめ、
「あなたの、願いを、叶えましょうか?」
と、もう一度ゆっくり言った。
照りつける太陽が、アスファルトを焼いていて都会の夏には独特の暑さがある。
男は黒いサマージャケットを羽織っていて、一見お洒落にみえるが
いくら薄手のものとはいえ、この時期にジャケットはあまりにも暑苦しい。
ひなたは、新手のナンパかな?と思った。
初めてのナンパがこんな意味の分からないナンパなんて、と呆れた。
「なんですか?」
と、ひなたはショーウィンドー越しに答えた。
「あなたの願いを、ひとつ叶えてあげましょう」
と、男もショーウィンドー越しにひなたに言った。
しつこいなぁと思ったひなたは、振り返って男の姿を見た。
その瞬間、この男はただのナンパ男じゃないと感じた。
汗ひとつ掻いていないどころか、暑ささえ感じていないようだった。
「わたしの願い……」
「ええ、あなたの願いを、何でもひとつ叶えてあげます」
「そんなこと……」
「出来るわけないと?いいじゃないですか、言ってみれば信じるのは後からでも」
ひなたのこめかみから、一筋汗が伝う。
自分より一回りくらい年上の男が、この暑さの中全く汗を掻いていないのを
ひなたは見たことがなかった。妙な不気味さを感じた。
蝉の鳴き声が、ただでさえ騒々しい都会の喧騒をより不快にさせる。
早く帰りたい、ひなたはそんな気持ちで
「何でもいいの?」
と、適当にあしらって男と離れたい思いで言った。
「何でも、いいですよ」
男は相変わらず涼しい顔でささやくように言った。
少しだけ目を伏せて、ひなたは言葉を選んでいた。
「なら、どんな男も引き付ける女になりたい。
わたしを蔑んでる男たちが放って置けないような、いい女に。
そうすれば、わたしだって……」
男はすっと右手を左胸にあてた。そこには見慣れない紋章のワッペンが付いている。
「分かりました、きっと叶うでしょう」
ひなたがなにか言おうとする前に、男は歩き出していた。
ショーウィンドーに映る自分の姿にがっかりしていたひなたに、ささやくように男は言った。
ひなたは男がショーウィンドーに映る世界にだけいるもののような感じがした。
振り向いてもそこには男はおらず、またいつもの現実に戻るだけ、そんな気がした。
男は一歩近づいて、ショーウィンドーに映るひなたをじっと見つめ、
「あなたの、願いを、叶えましょうか?」
と、もう一度ゆっくり言った。
照りつける太陽が、アスファルトを焼いていて都会の夏には独特の暑さがある。
男は黒いサマージャケットを羽織っていて、一見お洒落にみえるが
いくら薄手のものとはいえ、この時期にジャケットはあまりにも暑苦しい。
ひなたは、新手のナンパかな?と思った。
初めてのナンパがこんな意味の分からないナンパなんて、と呆れた。
「なんですか?」
と、ひなたはショーウィンドー越しに答えた。
「あなたの願いを、ひとつ叶えてあげましょう」
と、男もショーウィンドー越しにひなたに言った。
しつこいなぁと思ったひなたは、振り返って男の姿を見た。
その瞬間、この男はただのナンパ男じゃないと感じた。
汗ひとつ掻いていないどころか、暑ささえ感じていないようだった。
「わたしの願い……」
「ええ、あなたの願いを、何でもひとつ叶えてあげます」
「そんなこと……」
「出来るわけないと?いいじゃないですか、言ってみれば信じるのは後からでも」
ひなたのこめかみから、一筋汗が伝う。
自分より一回りくらい年上の男が、この暑さの中全く汗を掻いていないのを
ひなたは見たことがなかった。妙な不気味さを感じた。
蝉の鳴き声が、ただでさえ騒々しい都会の喧騒をより不快にさせる。
早く帰りたい、ひなたはそんな気持ちで
「何でもいいの?」
と、適当にあしらって男と離れたい思いで言った。
「何でも、いいですよ」
男は相変わらず涼しい顔でささやくように言った。
少しだけ目を伏せて、ひなたは言葉を選んでいた。
「なら、どんな男も引き付ける女になりたい。
わたしを蔑んでる男たちが放って置けないような、いい女に。
そうすれば、わたしだって……」
男はすっと右手を左胸にあてた。そこには見慣れない紋章のワッペンが付いている。
「分かりました、きっと叶うでしょう」
ひなたがなにか言おうとする前に、男は歩き出していた。