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桃井みりお
桃井みりお
novelistID. 44422
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花鳥風月 かまいたち【完結】

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 冬の太陽は陽の当たるところだけを暖め、空気まで暖めはしない。


 “居なくなった”“居なくなった?”“それが願い?”“それが……”
耕作は今聞いた言葉をただただ反芻するように繰り返した。
前かがみになり、自分の足下を見つめていた耕作は、ふっと上体を直し、
「翔はあなたに、“居なくなりたい”とお願いしたんですか?」
と、静かな口調で訊いた。

 
 いつの間にか、公園に人の気配はなくなり、ヒヨドリが遠慮がちに鳴いているだけだった。

「いいえ、違いますよ」
紳士はすっくと立ち上がり、ゆっくりと歩き出した。耕作も後を追って立ち上がった。
「なら、ならなんてお願いしたんですか? 翔は」

 ベンチから数歩離れたあたりで立ち止まり、耕作に背を向けたまま
「あの子の承諾も無く、願い事を口外するのは少々躊躇われますが……。
 いいでしょう。きっとあの子なら許してくれるでしょう。ただ……」
と、紳士はそれまで以上にゆっくりと丁寧に言った。

「ただ……、なんですか?」
耕作の心は随分と乱れている。

 対照的に紳士は落ち着いた様子で言葉を選んでいく。
「あなたは、それを知る覚悟が出来ていますか?」

 ──覚悟──

 耕作はそれまでの人生の中で、覚悟をしてことに臨んだことが無かった。
それどころか、改めて問われると、覚悟をするということが
どういうことなのか、判然としないことに気が付いた。
また、もし自分に覚悟というものがあったなら、違う人生を歩んでいただろうと耕作は思った。


「教えてくれ、翔の願いは“居なくなる”ってことじゃ無かったのか?」
耕作は紳士の背中に向かって、それまでより強く言葉をぶつけた。


「覚悟は出来ているということですね。わかりました、お話ししましょう。
 “あの子が居なくなる”それは──」
妙な間をとるので、耕作は次の言葉にじっと注意した。

「あなたの願いだったのですよ」

 耕作はしっかりと聞いていたにもかかわらず、全く理解が出来なかった。