神さまにつながる方法
全く不愉快だ。
目の上のタンコブとは、この事を言うんだろう。
僕の通っている医学大学の学園祭は、毎年、ミス・ミスターコンテストみたいなものがある。大々的にやると性差別団体なんかから苦情がくるから、今はネット投票、みたいな形なんだ。
僕もミスターの候補としてエントリーされた。どうやって選んだか知らないけど、学園祭実行委員が、選んだようだ。で、学園祭中に投票を受け付けて、後夜祭でグランプリ発表というしくみだ。
選ばれたのは、同じ一年生の高原暁斗。
今、はやりの○○男子、の、どれも合わないタイプで、華道とか茶道の家元坊ちゃんみたいなんだ。そういったタイプにありがちな艶っぽい色気もあって、人あたりがいいから、モテる。
恋人がいるらしい、て噂だけど、その恋人を見たものは誰もいない。彼の私生活は謎に包まれている。
「光喜(こうき)は、次々と女変えすぎで印象が悪いんじゃない」
由美香は窓からキャンパスを見ながら揶揄した。
多勢の人に囲まれて、高原暁斗が学校を出ていく様子が見える。
「あいつだって皆に知られてないだけで、いっぱい女変えてるって」
「やだねー 自分尺度な男って。自分がそうだから、って他の人もそうだって思うの止めたほうがいいんじゃない。高原は、あんたと違って、清廉な感じがする」
僕の友達のくせに、高原の肩を持つ由美香にムッとした。
「なんだよ、それ! じゃ、僕は不潔っていうのか? 」
「そこまで言ってないけど……女、次々変えるのはねえ……」
「……じゃ、あいつの正体を暴いてやるよ。あいつが、影でどんなことしているか突き止めてやる! 」
僕は立ち上がって拳を握った。
そうだ。
突き止めて、あいつの化けの皮を剥がしてやるんだ。
そしたら、このキャンパスのミスターは僕に転がり込んでくる。次点だからな。
ふふ、女たらしじゃないかもしれないけど、マザコンかもしれない。いや、家元にありがちな、婚約者が超嫉妬深くて尻に敷かれているとか…… なんか、想像しただけでも面白そうじゃないか。
よし。
その日から、僕は高原暁斗をひそかに尾行することにした。
高原の家は意外なことに、神社だった。
家元ではなかったんだ。……ま、近いっちゃー近い。
んで、家に帰ってから、特別どこに行くともなく、その日は夜まで粘って張っていたけど家から出てこなかった。
くー
こんなことやってられるか!
面倒になってきた。
こうなったら、あいつの噂を検証したほうがいいな。仲良さそうな友達、ニ三人に聞き込みをすると、高原は、剣道が強くて、道場に通っているらしい(意外!)。土曜日はほぼ確実に通っているみたい、とのこと。
しかし、剣道場に通っている高原を見ても、弱点を探せるとは思えない。いや、待てよ。通っている教室に、思い人がいたりしてな。剣道女子っていう線もありだ。
考えなおして、あいつの後を着けて行く。最寄り駅から30分ほど急行に乗って、通っているだろう教室についた。道場……みたいだな。
見学OK、生徒募集の意味もあって、窓から道場の様子が見えるようになっていた。
うわっ!
何、あの迫力。
高原つえー
それに、カッコイイ……
道場でも最強クラスみたいで、かかってきた相手をことごとく、やっつけていた。
竹刀をさばく姿は、とても美しくて
素人の僕が見ても、引き込まれる太刀筋だった。
「高原は清廉な感じがする」
由美香の言っていた言葉に、同意する自分がいた。
その瞬間、高原がこっちを見た。
え?
目が合った。
うわ、まずっ!
いつの間にか、身を乗り出して道場を見ていたみたいだ。
高原は、?な顔をして、じっと見つめている。
僕は気まずくなって目をそらすと、その場から逃げ出した。
ものすごく心臓がどきどきした。
恥ずかしいのと気まずいのと、あと、何か分からない感情があふれてきて、早足を止めることが出来なかった。
「赤池くん、ちょっといい? 」
大学で高原にそう声をかけられたのは、あの日から二日後だった。
「な、なに? 」
「赤池くんは剣道に興味があるの? 」
「え! あー……う、まあね……ちょ、ちょっとぐらいは興味あるよ」
「ふうん。そっか」
そう言って微笑んだ。
どき!
穏やかで、ひまわりみたいに華やかで、それでいて、マリアさまみたいな慈愛を感じる、その微笑……そんなに美しく僕に笑いかけた人は今までいない。
「ね、また、見学に来てよ。今度は中に入って見てみて。入りづらいんだったらオレが一緒に着いていってあげるから」
「う、うん。けど、僕、全くの初心者なんだ。高原くんみたいに強い人が、そんな気使わなくていいよ」
「ううん、そんなことぜんぜん気にしなくていいよ。赤池くんは背も高いし姿勢もいいからすぐに上手くなると思うな。オレ、嬉しいんだ。同じ学校の友達が、剣道に興味持ってくれるなんて。……あ、でも、無理にとは言わない。人にはそれぞれタイミングがあるから」
「あ、うん」
じゃね、と言って去ろうとする高原に、僕は咄嗟に声をかけた。
「あのさっ、ケータイ番号とメアド、教えてくれる? 」
一瞬、目を丸く見開いた高原だったけど。
「うん、いいよ」
高原はにっこり笑って答えた。
「機嫌いいけど、高原の弱点は見つかったの? 」
その日の昼休み。由美香がニヤニヤ笑いながら尋ねてきた。
「ま、まだ捜査中」
僕と由美香は、キャンパス外のベンチでお昼を食べていた。こう書くと、まるで僕と由美香が付き合っているみたいだろうけど、全く違う。こいつは小デブでブスで色気ナッシングだから、一緒にいても、気を使わなくていい女子なんだ。周囲も、この微妙なコンビをみて、どうしていいか分からないみたい。女子は『あんなブスとホンキ付き合ってないよね? けど仲いいしなあ』と遠巻きにしてるんだ。この微妙な誤解がラクで、由美香と仲良くしている。性格的には嫌いじゃないしな。
「新情報があるんだ」
由美香がスマホを取り出した。
「なに? 」
「高原が、喫茶店で綺麗な女性とお茶していたトコを見た人がいる。年上の女性らしい」
「ほんと? どこの喫茶店か分かる? 」
「うん」
由美香は、スマホで地図を出すと、喫茶店の場所を教えてくれた。
「見たのが先月の二日だったらしい。日曜日のお昼すぎ」
「じゃ、今度の日曜日にも来るかな」
「さあ……その日たまたま居た、だけなのかも。あ、でも、その店で高原とその女性が会っているのを何回か見た人はいるみたいよ。行きつけなのかな」
「うーん……いずれにせよ、日曜日だな。あいつが動くかどうかは」
「あんた、追っかけみたい」
「捜査は追っかけと同じなんだよっ」
この頃には、やる気がみなぎっていた。
あの清廉な高原がつき合っている女性に、ものすごく興味が出てきた。
やつはいったい、どんな女性が好きなんだろうか。
セックスはしてるのかな?
あんな綺麗な顔して、どんなセックスするんだろう。
あの色っぽい顔がどんな風になるんだろう。
うーん。
想像するのがむずかしいぞ。
目の上のタンコブとは、この事を言うんだろう。
僕の通っている医学大学の学園祭は、毎年、ミス・ミスターコンテストみたいなものがある。大々的にやると性差別団体なんかから苦情がくるから、今はネット投票、みたいな形なんだ。
僕もミスターの候補としてエントリーされた。どうやって選んだか知らないけど、学園祭実行委員が、選んだようだ。で、学園祭中に投票を受け付けて、後夜祭でグランプリ発表というしくみだ。
選ばれたのは、同じ一年生の高原暁斗。
今、はやりの○○男子、の、どれも合わないタイプで、華道とか茶道の家元坊ちゃんみたいなんだ。そういったタイプにありがちな艶っぽい色気もあって、人あたりがいいから、モテる。
恋人がいるらしい、て噂だけど、その恋人を見たものは誰もいない。彼の私生活は謎に包まれている。
「光喜(こうき)は、次々と女変えすぎで印象が悪いんじゃない」
由美香は窓からキャンパスを見ながら揶揄した。
多勢の人に囲まれて、高原暁斗が学校を出ていく様子が見える。
「あいつだって皆に知られてないだけで、いっぱい女変えてるって」
「やだねー 自分尺度な男って。自分がそうだから、って他の人もそうだって思うの止めたほうがいいんじゃない。高原は、あんたと違って、清廉な感じがする」
僕の友達のくせに、高原の肩を持つ由美香にムッとした。
「なんだよ、それ! じゃ、僕は不潔っていうのか? 」
「そこまで言ってないけど……女、次々変えるのはねえ……」
「……じゃ、あいつの正体を暴いてやるよ。あいつが、影でどんなことしているか突き止めてやる! 」
僕は立ち上がって拳を握った。
そうだ。
突き止めて、あいつの化けの皮を剥がしてやるんだ。
そしたら、このキャンパスのミスターは僕に転がり込んでくる。次点だからな。
ふふ、女たらしじゃないかもしれないけど、マザコンかもしれない。いや、家元にありがちな、婚約者が超嫉妬深くて尻に敷かれているとか…… なんか、想像しただけでも面白そうじゃないか。
よし。
その日から、僕は高原暁斗をひそかに尾行することにした。
高原の家は意外なことに、神社だった。
家元ではなかったんだ。……ま、近いっちゃー近い。
んで、家に帰ってから、特別どこに行くともなく、その日は夜まで粘って張っていたけど家から出てこなかった。
くー
こんなことやってられるか!
面倒になってきた。
こうなったら、あいつの噂を検証したほうがいいな。仲良さそうな友達、ニ三人に聞き込みをすると、高原は、剣道が強くて、道場に通っているらしい(意外!)。土曜日はほぼ確実に通っているみたい、とのこと。
しかし、剣道場に通っている高原を見ても、弱点を探せるとは思えない。いや、待てよ。通っている教室に、思い人がいたりしてな。剣道女子っていう線もありだ。
考えなおして、あいつの後を着けて行く。最寄り駅から30分ほど急行に乗って、通っているだろう教室についた。道場……みたいだな。
見学OK、生徒募集の意味もあって、窓から道場の様子が見えるようになっていた。
うわっ!
何、あの迫力。
高原つえー
それに、カッコイイ……
道場でも最強クラスみたいで、かかってきた相手をことごとく、やっつけていた。
竹刀をさばく姿は、とても美しくて
素人の僕が見ても、引き込まれる太刀筋だった。
「高原は清廉な感じがする」
由美香の言っていた言葉に、同意する自分がいた。
その瞬間、高原がこっちを見た。
え?
目が合った。
うわ、まずっ!
いつの間にか、身を乗り出して道場を見ていたみたいだ。
高原は、?な顔をして、じっと見つめている。
僕は気まずくなって目をそらすと、その場から逃げ出した。
ものすごく心臓がどきどきした。
恥ずかしいのと気まずいのと、あと、何か分からない感情があふれてきて、早足を止めることが出来なかった。
「赤池くん、ちょっといい? 」
大学で高原にそう声をかけられたのは、あの日から二日後だった。
「な、なに? 」
「赤池くんは剣道に興味があるの? 」
「え! あー……う、まあね……ちょ、ちょっとぐらいは興味あるよ」
「ふうん。そっか」
そう言って微笑んだ。
どき!
穏やかで、ひまわりみたいに華やかで、それでいて、マリアさまみたいな慈愛を感じる、その微笑……そんなに美しく僕に笑いかけた人は今までいない。
「ね、また、見学に来てよ。今度は中に入って見てみて。入りづらいんだったらオレが一緒に着いていってあげるから」
「う、うん。けど、僕、全くの初心者なんだ。高原くんみたいに強い人が、そんな気使わなくていいよ」
「ううん、そんなことぜんぜん気にしなくていいよ。赤池くんは背も高いし姿勢もいいからすぐに上手くなると思うな。オレ、嬉しいんだ。同じ学校の友達が、剣道に興味持ってくれるなんて。……あ、でも、無理にとは言わない。人にはそれぞれタイミングがあるから」
「あ、うん」
じゃね、と言って去ろうとする高原に、僕は咄嗟に声をかけた。
「あのさっ、ケータイ番号とメアド、教えてくれる? 」
一瞬、目を丸く見開いた高原だったけど。
「うん、いいよ」
高原はにっこり笑って答えた。
「機嫌いいけど、高原の弱点は見つかったの? 」
その日の昼休み。由美香がニヤニヤ笑いながら尋ねてきた。
「ま、まだ捜査中」
僕と由美香は、キャンパス外のベンチでお昼を食べていた。こう書くと、まるで僕と由美香が付き合っているみたいだろうけど、全く違う。こいつは小デブでブスで色気ナッシングだから、一緒にいても、気を使わなくていい女子なんだ。周囲も、この微妙なコンビをみて、どうしていいか分からないみたい。女子は『あんなブスとホンキ付き合ってないよね? けど仲いいしなあ』と遠巻きにしてるんだ。この微妙な誤解がラクで、由美香と仲良くしている。性格的には嫌いじゃないしな。
「新情報があるんだ」
由美香がスマホを取り出した。
「なに? 」
「高原が、喫茶店で綺麗な女性とお茶していたトコを見た人がいる。年上の女性らしい」
「ほんと? どこの喫茶店か分かる? 」
「うん」
由美香は、スマホで地図を出すと、喫茶店の場所を教えてくれた。
「見たのが先月の二日だったらしい。日曜日のお昼すぎ」
「じゃ、今度の日曜日にも来るかな」
「さあ……その日たまたま居た、だけなのかも。あ、でも、その店で高原とその女性が会っているのを何回か見た人はいるみたいよ。行きつけなのかな」
「うーん……いずれにせよ、日曜日だな。あいつが動くかどうかは」
「あんた、追っかけみたい」
「捜査は追っかけと同じなんだよっ」
この頃には、やる気がみなぎっていた。
あの清廉な高原がつき合っている女性に、ものすごく興味が出てきた。
やつはいったい、どんな女性が好きなんだろうか。
セックスはしてるのかな?
あんな綺麗な顔して、どんなセックスするんだろう。
あの色っぽい顔がどんな風になるんだろう。
うーん。
想像するのがむずかしいぞ。
作品名:神さまにつながる方法 作家名:尾崎チホ