何が見えますか?
通学には電車を用いている。
毎朝満員列車に乗って学校まで向かうのだけど、私の区間は特に人が多く、一番きつい区間にバッティングしてしまっているのだ。
まあ、他に通学手段があるわけでなし、仕方なく電車通学と言うわけだ。
この駅のホームは多くの駅と同じように、上りのホームと下りのホームが対面しており、向かい側にも人が並んでいる訳だ。特にこの駅は快速が通過する駅の割に利用率が高いので、一度の乗車率も高くなりがちだ。今もまた、いつものように快速が通過する。
向かいのホームに並んでいる人のうち、一人と私は目があった。
昨日ぶつかりそうになったおじさんだった。おじさんは疲れた顔をしていたが、私と目があった時、にぃっと笑った。
――ゴン。鈍い音がホームに響いた。
直後、ホームに悲鳴が響き渡った。
疲れた体を引きずって、家へと辿り着く。
今日はあの投身自殺を見た後の所為か、非常に疲れた。
食事も断り、日課の勉強もやらずにベッドに倒れ込む。
疲れているせいで、着替えもせずにそのまま眠ってしまった。
――暗いホームに私は立っている。そして向かいのホームに男が立っていた。男に見覚えはない。どこにでも居そうなただのおじさんだ。
ユラユラと周りで鬼火が揺れている。私の足元もグラグラと揺れているようで気持ちが悪い。
顔のない男はにぃっと笑う。
直後、ぐらりと世界が反転する。
――痛い。どうやらベッドから落ちてしまったようだ。
今時子供でもやらない失敗だ。悪夢にうなされてベッドから転落するなんて。
部屋は完全に暗くなってしまっており、時計を見ると帰ってから四時間余り経っていることが分かる。
疲れが取れない。
私はせめて着替えようかと思い、ハンガーを手に取る。
――ふと、目の端にそれは写った。
この時、私はそれを見ない方が良かった。気が付かない方が良かった。その写真は闇を掻き消す光の下よりも、負を浮き彫りにする闇の中の方が良く見えた。
にぃっと笑う男の顔だ。写真に写っていたのは何処かで見たような、男の笑みだった。
ああ! 私はこの笑みをよく知っている!
今朝の男だっ! 私の目の前で投身自殺した男、その男が最期に私に向けた笑みがこの写真に写っていたのだった。
――以下絶叫。