何が見えますか?
何が見えますか?
「何これ、写真?」
香織は一枚の真っ黒な印画紙を私に手渡した。
夕暮れのファーストフード店。そこで食事を摂ることにした私と香織であった。そこで話題に上がったのが、この黒い写真だった。
それにしても気持ちの悪い写真だ。真っ黒で何も写していない写真がここまで気持ちの悪いものだとは思わなかった。なんというか、ジィっと見つめていると不安な気持ちになって来るのだ。
「この前の旅行で撮った写真の中に紛れてたの。ねぇ、何が写ってるように見える?」
「何って……」
旅行と言えば、夏に海まで遊びに行った時の写真だろうか。電車を乗り継いでの、一時間ばかりの小旅行だ。そう言えば、電車の車内で何枚も写真を撮ったことを思い出す。
そして再び、写真に目をやる。
やはり、ただ真っ黒の印画紙だ。レンズの蓋でも閉じて撮ったのだろうか、目に見える物は何も写っていない。
――いや、幽かにだが、何か模様のような物が写っているようにも見える。
「んー、やっぱり分かんないや」
ただ、それがどのようなモノを写しているのかまでは分からない。
「そっか、分かんないか。やっぱただの撮影ミスなのかな?」
そう言って、香織は大しておいしくもないファストフードに齧り付くのだった。
香織と別れた後、私は一人ぼんやりと家路に付く。黄昏時、夕焼けの紅と夜の藍が混ざり合って、なんと幽玄なことか。
がたんごとんと、横を列車が追い越して行く。
なんでもない、ただの妄想。暗闇の中を走り抜ける列車と。その中に乗る表情のない乗客たち。その中に、私も混ざって何処かに向かう。
がたんごとん。列車が揺れる。闇を斬り裂き、列車は悪夢を走り抜けて往く。
窓からには、クラクラと揺れるサイケデリックな火の玉風景。暗闇の中にぼぅっと浮かんではフッと消える。
結局は暗闇。ちらほらと幽かに揺れる何か。なんなのだろうか……?
列車は闇を往く。表情のない目をした乗客を乗せて、列車は何処かに向かう。
それは何処? いつ到着するの?
幽かな炎を揺らす車外を横目に、私は列車に揺られる。
列車の夢を見ながら、私は闇の向こうを想うのだ。
あの闇の向こうには何がいるんだろうか? 答えはすぐ、そこに。硝子一枚分ほどの暗闇の向こう側に――。
他愛のない妄想だ。誰も傷つかない、ただの妄想。幻想、空想、妄想。この空気に当てられて私が描いた絵空事だ。
列車の行く先を見つめながら、私はぼぅっとポケットに手を突っ込む。
――ん、これは。ポケットの中に覚えのないモノが入っていた。
いや、覚えがないというのは不正確か。私のモノではない何かが入っていたのだ。私はそれを引きずり出す。
「げ、持ってきちゃった」
香織に渡された写真を、私はポケットの中に突っ込んだまま返しそびれてしまい、そのまま家路に付いてしまった。
再び三度、私は写真に目をやる。
やっぱりただの写真だ。何も写っていない真っ黒な写真だ。この昏空の下では、余計にその写真の正体が闇に紛れてしまう。
「ん?」
しかし、何故なのだろうか。ふと私は、その真っ黒な写真に何かが写っているように見えた。光の加減だろうか――いやおかしい。こんな暗い所でこの写真に写っているモノが分かるわけがない。
ジィっと写真を見つめる。危うく人にぶつかりそうになるが、寸でのところで踏み止まる。
ごめんなさい、とぶつかりそうになったおじさんに会釈し、そのまま再び歩き出す。
気が付けば家まで辿り着いていた。部屋に戻る頃には写真のことなんか忘れて、お風呂のことを考えていた。
写真のことを再び思い出したのは、今日の授業内容の復習を始めた頃だった。
ふと、目の端に写真がチラついたのだ。
どうやら、集中力が途切れてしまったようだ。気になって、写真を手に取る。
やはりただの写真だ。光を反射させてみても、何の模様も浮かんでこない。
結局なんなのだろうか、この写真は。考えても仕方がない。私は写真を手放し、再びノートに向かった。
「何これ、写真?」
香織は一枚の真っ黒な印画紙を私に手渡した。
夕暮れのファーストフード店。そこで食事を摂ることにした私と香織であった。そこで話題に上がったのが、この黒い写真だった。
それにしても気持ちの悪い写真だ。真っ黒で何も写していない写真がここまで気持ちの悪いものだとは思わなかった。なんというか、ジィっと見つめていると不安な気持ちになって来るのだ。
「この前の旅行で撮った写真の中に紛れてたの。ねぇ、何が写ってるように見える?」
「何って……」
旅行と言えば、夏に海まで遊びに行った時の写真だろうか。電車を乗り継いでの、一時間ばかりの小旅行だ。そう言えば、電車の車内で何枚も写真を撮ったことを思い出す。
そして再び、写真に目をやる。
やはり、ただ真っ黒の印画紙だ。レンズの蓋でも閉じて撮ったのだろうか、目に見える物は何も写っていない。
――いや、幽かにだが、何か模様のような物が写っているようにも見える。
「んー、やっぱり分かんないや」
ただ、それがどのようなモノを写しているのかまでは分からない。
「そっか、分かんないか。やっぱただの撮影ミスなのかな?」
そう言って、香織は大しておいしくもないファストフードに齧り付くのだった。
香織と別れた後、私は一人ぼんやりと家路に付く。黄昏時、夕焼けの紅と夜の藍が混ざり合って、なんと幽玄なことか。
がたんごとんと、横を列車が追い越して行く。
なんでもない、ただの妄想。暗闇の中を走り抜ける列車と。その中に乗る表情のない乗客たち。その中に、私も混ざって何処かに向かう。
がたんごとん。列車が揺れる。闇を斬り裂き、列車は悪夢を走り抜けて往く。
窓からには、クラクラと揺れるサイケデリックな火の玉風景。暗闇の中にぼぅっと浮かんではフッと消える。
結局は暗闇。ちらほらと幽かに揺れる何か。なんなのだろうか……?
列車は闇を往く。表情のない目をした乗客を乗せて、列車は何処かに向かう。
それは何処? いつ到着するの?
幽かな炎を揺らす車外を横目に、私は列車に揺られる。
列車の夢を見ながら、私は闇の向こうを想うのだ。
あの闇の向こうには何がいるんだろうか? 答えはすぐ、そこに。硝子一枚分ほどの暗闇の向こう側に――。
他愛のない妄想だ。誰も傷つかない、ただの妄想。幻想、空想、妄想。この空気に当てられて私が描いた絵空事だ。
列車の行く先を見つめながら、私はぼぅっとポケットに手を突っ込む。
――ん、これは。ポケットの中に覚えのないモノが入っていた。
いや、覚えがないというのは不正確か。私のモノではない何かが入っていたのだ。私はそれを引きずり出す。
「げ、持ってきちゃった」
香織に渡された写真を、私はポケットの中に突っ込んだまま返しそびれてしまい、そのまま家路に付いてしまった。
再び三度、私は写真に目をやる。
やっぱりただの写真だ。何も写っていない真っ黒な写真だ。この昏空の下では、余計にその写真の正体が闇に紛れてしまう。
「ん?」
しかし、何故なのだろうか。ふと私は、その真っ黒な写真に何かが写っているように見えた。光の加減だろうか――いやおかしい。こんな暗い所でこの写真に写っているモノが分かるわけがない。
ジィっと写真を見つめる。危うく人にぶつかりそうになるが、寸でのところで踏み止まる。
ごめんなさい、とぶつかりそうになったおじさんに会釈し、そのまま再び歩き出す。
気が付けば家まで辿り着いていた。部屋に戻る頃には写真のことなんか忘れて、お風呂のことを考えていた。
写真のことを再び思い出したのは、今日の授業内容の復習を始めた頃だった。
ふと、目の端に写真がチラついたのだ。
どうやら、集中力が途切れてしまったようだ。気になって、写真を手に取る。
やはりただの写真だ。光を反射させてみても、何の模様も浮かんでこない。
結局なんなのだろうか、この写真は。考えても仕方がない。私は写真を手放し、再びノートに向かった。