「舞台裏の仲間たち」 70~71
「舞台美術の雰囲気を確認したくて、試験的に
二人へ台本の本読みを頼みました。
いつのまにか、二人とも夢中になっているようですが・・・・
でも、雄二もそれなりに良い味をだしています。
座長、雄二と茜のフレッシュコンビでも、
良い舞台が作れそうです」
「ああ、石川君がやきもちを焼かなければ、使えそうな雰囲気だね」
座長もまんざらではなさそうに、本読み中の二人を見つめています。
ちずるが座長の肩に片手を置いたまま、空いた手で
傍らに居る順平の袖を引っ張りました。
「時絵には、18番(おはこ)の夕鶴があるでしょう。
茜には、この黒光が代表作になりそうだわ。
ねぇ、私にも何か書いてよ、順平君。
2人に負けないほどの代表作を」
「そうですぇ・・・・純愛ものでも書きますか。
病気の男性を、心から看病をして支えると言う話なら、
すぐにでも書けますが。
あらためて書くまでもなく既にちずるさんは、その主役を演じています。
ではその先の、愛し合う夫婦の未来でも書きますか?」
「そこには、もうひとり競演女優が登場するのよ。
時絵と言う悪い女が登場をして、この悪女とちずるが座長へ
悪戯を共謀するの。
気の弱い病気の男を、どこまでも、目いっぱい脅迫し続けるの。
いいかげんでお前の、本心を白状しろって・・・・」
時絵が戻ってきて、順平の耳元で小声でそうささやきます。
順平が一番気になっている質問を、時絵に問いかけます。
「それで、本音を吐いたんですか、その病気で気の弱い男は」
「それが言ったのよ、年甲斐もなく。
15、6歳の今頃の餓鬼だって、あんなに元気に
『愛しています』なんて言わないわよ。
傍で聞いているこっちのほうが照れちゃった。
あまりにも唐突なうえに、うっすらと涙まで浮かべているんだもの、
気迫に押されて、ちずるまで思わず『私も!』なんて口走るんだもの。
私は一体どうすればいいのさ、この上なしに参っちゃった。
それにさぁ・・・・良くよく考えたら、ずいぶんと自分勝手な話だわ。
座長も、一度は私にプロポーズをしたくせに、
ちずるの顔をみたとたん、ころっと態度を変えるんだもの、
男なんか、まったく信用が出来ないわ」
「なるほど・・・・予想通りの展開で落ち着きましたか。
そうなると座長もちずるさんも、再びの
新婚と言うことになるわけですね・・・・
じゃあ、看病と新婚で忙しいから、とうぶん新作の脚本なんか、
とても必要はないですね」
「おいっ、其処の外野ども、はなはだしく雑音がうるさい」
「しぃ~座長。
これからいいところですから、少し静かにしてください。
お~い、雄二、気にすることはないから、そのまま本読みを続けてくれ。
今のはただの、色ボケした病人の戯言だ。
雑音は気にしないで、次のページへ進んでくれ・・・・」
作品名:「舞台裏の仲間たち」 70~71 作家名:落合順平