「舞台裏の仲間たち」 70~71
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「若い守衛の魂は激しく燃え昂ぶらせた、というこの亀戸風景もやはり、
輪郭をぼかしたタッチで表現をするのか・・・・
模写をしろというのなら簡単だが、ぼかしてにじませろとは、
すこぶる難解な注文だな」
再び、西口が顎に手を置いて考え込んでしまいました。
小山君がその背後から天井を指さしながら、声を掛けます。
「17歳の碌山少年に天啓ともいえる衝撃を与えて、
画家を志すきっかけを作ったと言う作品だ、
あだやおろそかには扱えないだろう。
インパクトからいっても、背景に加えておきたいひとつだな。
どうだろう、薄い布を天井から下げて、スライドで
映写してみたらどうだ」
「映写機か・・・・その手もあるな。」
舞台美術を担当するこの二人のつぶやきを尻目に、
稽古場の中央に立った茜と雄二の台本の本読みは続き、いつしか
熱も帯びてきました。
とりわけ、雄二の読み方には一段と力が入ってきました。
劇中にいる碌山の意思を汲み取るかのように、行間を読むその目にも、
なぜか真剣な光が現れてきました。
作品名:「舞台裏の仲間たち」 70~71 作家名:落合順平