独書室
そうだ。キミがどうしてあんな所に居たか、ということだけど。(はて?)
キミが、戻ってこないことと関係があるのかな……
その後、内定のなくなったボクは、また就職活動を始めた。
何か見つけなくてはと求人誌を手にしたとき、織り込まれていた募集に応募した。
不思議なキミのことを書いた文が、今の仕事に結びついたのだ。
おかげで、この賃貸のマンションを出ることもなく、独り原稿を書く空間になった。
『独書室』
そんな呼び方で、ボクはこの部屋に愛着を感じている。
ある日の夕暮れ。食料を買いに行こうと玄関ドアを開けると「どれがいいのかわからないけど、一宿のお礼です」とドアの前に立っていたキミ。
肉まん、ピザまん、カレーまん……差し出されたコンビニ店の袋には、おそらく全種類を買ってきたのではないだろうか、十個ほど入っていた。
「こんなに独りじゃ食べられないよ」
「ありゃ」と困った顔のキミ。
一緒に食べた。
またしばらくすると、キミはやって来た。
そんなくりかえしがいつしか、今に繋がっているようだ。
キミが居るときに書いた原稿は、何故か没にされることがほとんどない。
ボクの『独書室』には、キミが居ないと物足りなくなってきた。
ずっと『独書室』。
ふたりで居ても『独書室』
そんな意識の邪魔にならないキミが居ないと、ボクの意識はキミの気配を探し求める。
今も、背中に隙間風を感じながら原稿に書き止めるボクが居る。
キミの事情など考えてたことはなかったけれど、今一番傍にあって欲しいものかもしれない。
ふと、キミの座る場所を見つめる。(あれ?……そんなわけないか……)
呟いた。
ただそれだけなのに……。
― 了 ―