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天使にホームシック

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「う、うん。でも、迷惑かと思って……」
「ヘンな遠慮するな、今更、気持ち悪い」
「……ごめん」
 相変わらず、口悪い。
 けど、その毒舌さえも懐かしくて恋しい。
 しばらく、また黙ってしまった。沈黙していてもちゃんと、すぐそばに正宗がいるのが分かる。すごく嬉しい。ああ、まさむね、まさむね、まさむね。

「あと、もうちょっとだろ?」
「あ、ああ。でも二ヶ月もある」
「じゃあ、もう帰ってくる? 」
「…………ううん。がんばる」

 そうなんだよなー。そう言われると、ここで帰るなんてカッコ悪すぎ。自分で一旦決めてこっちきたんだからな。正宗と暁斗に「情けない男」て思われるのは絶対に嫌だ。

「……うん。……待っているから」
 優しい声。
 恋しくて甘い気持ちがいっぱいになる。
 その上、(シニカル正宗が)俺の帰りを待っていてくれているなんて……

「あああああ、まさむね、会いたい! 会って抱きしめたい! 」
 愛しさと、切なさと、官能と、性欲と、……すべてが爆発しそうだった。

「だから止めておいたほうがいいって暁斗が言ったのに」
 はぁ、はぁ、と息を吐いている俺に、正宗はあきれていた。

「あんまり我慢はよくないぞ。テキトーにぬけ! 」
「無理だ! もう実験したけど、無理だった。おまえ以外の奴とはセックスできないことがよく分かった。……おまえは、全く違うんだ。もう抱き合った瞬間から快感度が普通じゃねーんだよ…………はあ」
「………………」
 正宗は何かを考えているようだった。

「じゃ、今も感じる? 」
「ああ、もうブルブルする」
 本当に背中と足先が興奮でぞくぞくした。快感だ。

「ふふ。テレフォンセックスだな。こんな簡単なセックスもあったんだ。……分かったよ…… とにかく、ちょっとは満足したろ? こうやって時々電話してこい。俺と話すのがキツいんだったら、暁斗だけにでもいいよ。暁斗とだったら落ち着くだろ? 」
「……うん」
 まだ、ブルブルしながら返事をした。

 確かにその通りなんだ。
 暁斗のあのキラキラした細かい愛情を受けていると、心が安らかになるんだ。癒されるんだ。ひまわりのような暁斗の声を聴くだけで胸がときめく。

 一方で正宗には、強い快楽を感じてしまうから困ってしまう。いや、ものすごく求めていたんだけど。それを。

「じゃあね、ダーリン。また、電話でエッチしよう、ちゅ」
 そう言うと電話は切れた。

 な、

 なんちゅー、

 下半身にくる色気。

 あれが、堅物修行者で、クールな秀才で、恋の話が通じない冷血漢で、どうしても俺が勝てない剣士、……なのか?

 あまりの二面性に俺はクラクラする。

 正宗は普段は本当に強くてしっかりしている青年だからな。なのにセックスしている時の正宗は、女性顔負けに色っぽい。違反なほど可愛い。あれ、暁斗が引き出したんだろうな。うーーん、そう考えると、やっぱ暁斗はすごいのかもしれない。

 結局。
 あのふたりがいて、俺の天使は完成するんだ。



「何これ?」
 エンゲルベルトに手渡された二枚の写真を見比べた。
 なぜか、孫悟空のコスプレをしたもの、と、平安時代の貴族風衣装をきて気取っているものとがある。

「だから、どっちがいいと思う? こんどのコスプレエキスポに出ようと思ってるんだけど、いくら俺が悟空と似てるっても、孫悟空はやりつくされた感あるじゃん。その点、安倍清明ならまだ有名じゃないからいいかな、って思って」

「マニアックすぎて分からないんじゃない? 」

「いいんだよ、それが。きっと皆が『それ何のコスプレ? 』って聞いてくるから、『これは陰陽師っていうエクソシストの衣装だ』て説明してやるんだ。『青の祓魔師』が流行っているから、分かる人には分かるよ。くくく、あー面白そうだなあ」

 エンゲルベルトに孫悟空に似ている、なんて言わなけりゃ、よかった。『陰陽師』のマンガなんて貸さなけりゃよかった。本職の正宗にとっても悪い気がした。

「でね、カエデのぶんもあるんだ。これ、源博雅(みなもとのひろまさ)の衣装。絶対似合うよ。だって、カエデが一番ぴったりなキャラクターは源博雅だから! パズーより鉄郎より、源博雅なんだよ。誠実で純粋で真面目で、ほんといい奴なんだ。ね、ぴったりだろ? 」

 俺はガックリと下を向いた。
 あと二ヶ月は、この訳分からないオタクと付き合わにゃならんのだろう。でもって、案外それが楽しめそうだってこと。ドイツ語も使う機会が増えそうだし。

 でも、エンゲルベルトには本物の陰陽師と知り合い、ってことだけは知られないようにしなくちゃな。

 そんな事言ったら、日本に着いてきかねないもん。
 俺の大事な大事な天使は、絶対に教えてやらないんだ。

(完結)
作品名:天使にホームシック 作家名:尾崎チホ