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桃井みりお
桃井みりお
novelistID. 44422
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それから【完結】

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彼女は僕に勇気をくれた。

 彼女と言っても恋人だったわけではない。
僕は彼女の声を知らない。
僕は彼女の顔すらも知らない。
ただ、彼女の好きなものを少し知っていて、
それが僕も好きだったと言うだけだ。
僕たちはペンフレンドだった。

 彼女は僕に幸せをくれた。
それから、少しだけ苦しみをくれた。

 15年前、僕たちは中学生だった。

 15年前の夏は所謂冷夏で、その秋には現代の米騒動だ、
なんて頻繁にテレビのワイドショーが煽っていた。
僕はその出来事に全く興味がなかった。
家に帰れば食事は用意されていてたし、
そのうえ、食べたくなければ食べなくても
父も母も何も言わなかった。
父と母が口を出すことは学校での成績のことだけだった。
しかし、裏を返せば成績が悪ければすべてのことに口を出してきた。
僕がファーストフードを食べて帰れば、
「そんなものを食べているから、成績が…」と言われるし、
僕が部屋で音楽を聴いていると、
「そんなものを聴いているから、成績が…」と言われる。
僕は成績をある程度保つことと、親の前では優等生を演じることだけに
気を使って、それなりに毎日を過ごしていた。

 部活も幽霊部員、クラスでも地味な男子グループの外野。
家でもおとなしくていい子な優等生。
なにかが欲しかった、そして僕はパンクに出会った。

 彼女と文通を始めたのは、ある音楽誌がきっかけだった。
文通相手募集の欄に当時僕が大好きだったバンドの名前があった。
そもそも僕は手紙なんてマメに書くタイプじゃないので
そのバンド名が書いてなければ目を留めることは無かっただろう。
そして文通相手を募集していたのが、同じ中1の女の子じゃなければ、
文通をすることも無かっただろう。
そして彼女との文通が始まったのだ。

 初めは好きなバンドのことばかりをお互い書いていたのだけど、
半年ほど経った頃から彼女は少しずつ
彼女の心の中のことを書いてくるようになった。

作品名:それから【完結】 作家名:桃井みりお