「舞台裏の仲間たち」 62~63
そのために、診断される患者さんの少なくとも25%程度が、
定期健康診断や他の病気の検査などで、白血球の増加をきっかけに
偶然に発見をされています。
自覚症状がない状態で発見されてから、症状が出現するまでは
平均で、約4年はかかるといわれています。
一部に進行が早く生存期間が1年未満という場合もありますが10年から20年と
長い経過をとることが多く、個人によっても経過は異なります。
「それでも油断はできません。
急激に症状が変化することもあるようです。
完治する病気ではなく長期にわたる治療が必要で、それも一般的には
延命治療が中心になるようです」
「座長の場合はどうなるのですか。
いつから治療が必要になのか、
普通に生活を続けるためには、どんな対応をするのか、
いろいろと注意事項なども・・・・」
うろたえる順平の手を、レイコが静かに押さえます。
「落ち着いて、順平。
白血病であることが判明したけど、それはまだまだ先のはなしなの。
骨髄性の白血病と違って、慢性リンパは
病気の進行には、大きな個人差のでる「ガン」なのよ。
・・・・やだ、順平ったら、
1985年に亡くなった夏目雅子の病気と勘違いをしているわ。
向こうは、急性骨髄性白血病による感染死で、
座長は、慢性リンパの診断なのよ。
これから白血病と闘うという点では同じでも、生存率は格段に違うのよ。
たしかに不治の病と言われているけれど、
すべてが白血病で死んでしまうと決まったわけじゃないの。
まだまだ希望はあるんだから」
時絵ママの顔を見上げて、レイコが静かに笑います。
「順平は、夏目雅子の大ファンなの。
絶世の美女といわれた女優さんなのに、西遊記の三蔵法師役を演じた時、
その役作りのために、実際に剃髪をしたという逸話もあるの。
この人ったら、すっかりそれにはまってしまって、
映画館に毎日通っていたわ。
ああいう感じの、清楚で美しい女性が大好きなのよ・・・
だからそのせいで、白血病と聞いただけでも異常に反応するの。
ねぇ、順平」
「あらまあ、順平君の好みは夏目雅子ですか。
そういえば、レイコちゃんにも、どことなくそんな雰囲気もありますねぇ。
それはともかく、それでも予断はできません。
それでね、もうひとつ座長の決意があるの。
先のことは解らないにしても、今できることは精一杯やろうということで
実家に戻って、農業をやるためも決めたそうです。
どこまで働けるのかは解りませんが、
本人なりに、農家の長男としての『けじめ』も、
考えたのだと思います」
「そうなると・・・・
ちずるさんを説得することが
さらに難しくなってしまう、ということですね」
レイコが、あらためて時絵ママの目を覗き込みます。
その意味をしっかりと受け止めた時絵ママが、レイコの肩に手を置きます。
「男なんか、頼りにならないわね。
いざとなるとうろたえているばかりで話にもならない。
ねぇ、レイコちゃん。
大変なことは承知の上で、
ちずるの説得役をお願いできるかしら。
それも一週間以内と言う期限付きだけど、どう出来る? 」
作品名:「舞台裏の仲間たち」 62~63 作家名:落合順平