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「舞台裏の仲間たち」 60~61

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 「誰だって、おかしくなるわょ
 この2カ月余り、仕事に追いまくられた揚句に、
 社長が消えてしまい、工場の閉鎖まで決まってしまえば、
 精神的にも落ち込むわ。
 精神的に弱い男を、順平が大っ嫌いなことはよく知っているけれど
 それとこれとは問題が違うでしょ。
 あんたみたいに、なんでもかんでも誰もが精神的にタフじゃないの。
 つっかい棒が外れてしまえば、みんな弱くなるの。
 あんたが今やるべきことは、雄二君を責めることではなく
 外れたつっかい棒を、元に戻すことでしょう」

 はい、と、一口ふかした煙草を苦虫をかみつぶしたような
順平の口元にレイコが無理やりに手渡しします。
不満そうな順平の様子を横目に見て「そこで停めて」とレイコが命令を出します。
雄二が収容された救急病院が川の向こう側に見える堤防上の、
人気のない道路上です。

 助手席から降りたレイコが運転席側に回り静かにドアを開けました。

 「ほらぁ、頭をひやさなくちゃ。
 見てよ、もう間もなく深夜だと言うのに、
 まだ起きていて明かりのついている家もある。
 寝静まっている家もたくさんいるけれど、
 みんなひとつひとつに、それぞれの生活が有って、行き方が有る。
 たくさんの人たちが、いいろいろなことを抱え込みながら
 毎日を生きているの。
 でもね、真剣に生きているからこそ、病気になる事もあるし
 時には心が傷ついて、まともに考えられなくなることもあるの。
 あんたは心底タフだからいいけど、
 私みたいに、ほんのささやかなことでも傷ついてしまう人間も居るのよ。
 え? そんなことは無いだろうって、
 ・・・・うふふ、ほら、やっと笑った。
 その笑顔が大切なの、順平。
 お願いだから、その笑顔を雄二さんにも見せてあげて。
 あんたも雄二君と一緒に、金型を通じて、台湾での悪夢を見た仲間でしょ。
 戦友じゃないの。
 いじめてどうするの・・・・
 んん、どうした、そんなに私の顔を見つめて」

 「・・・・いい女だな、お前って」


 「ば~か、遅いわよ。
 でもさ、雄二さんには優しくしてあげて。
 心からの優しさが、なによりの力になる時もあるんだから。
 もう、社長はいないし、
 従業員はみんないなくなっちゃったんだもの
 金型仲間といえば、もうあんたしか残って居ないじゃないの。
 あんたにしか、できないこともきっと有るでしょう」

 「そうだな・・・・その通りだ。
 つい、頭に血がのぼっちまったようだ。
 冷静さを欠いていた」