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コメディ・ラブ

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期待しないで




おひさまの光がまぶしくて目が覚めちゃった。

部屋は昨日の夜とちっとも変わっていなかった。

「戻ってきてないの……」

昨日の夜、美香先生を追いかけて出て行った晃さんの後ろ姿はかっこよかった。

けれど、優海昨日からずっと胸がキュンって感じじゃなくてズンって感じ。

明日も明後日も一ヶ月後もズンって感じは治らないのかな……




鳥がチュンチュンチュンチュンうるさい。

目に当たっている日差しの量で、今日はまた暑くなることがわかる。

目を開けると俺は見たことがない場所にいた。

起き上がろうとすると、額に当てられていたと思われるタオルが落ちてきた。

そうだ、ここは……

枕元を見ると美香が机で昼寝する高校生の様に寝ていた
 
思わず顔がにやけた。

背伸びをすると、さらに身体がすっきりした。

肩を少しゆすりながら、

「おい、起きろ!俺直ったぞ」大声で呼びかけた。。

美香は一瞬目を開けたが、すぐに閉じた。

姿勢を一つも変えずに口だけ動かした。

「……なんか体が重くて、寒い」

嫌な予感がした。
   
美香の額に手を当てると予感が的中していた。

「熱がある……しかも結構高い……」



職員室に入ってくると、教頭先生が電話をしている。

「大丈夫、こっちは心配しなくていいから、じゃあお大事にね。」

教頭先生に軽く会釈をして通り過ぎた。

「佐和子先生、美香先生今日お休みだって。39℃でたんだってさ」

すぐに保健の先生が教頭先生に駆け寄ってきた。

「昨日、晃さんも高熱だったのよ。風邪が流行ってるのかしらね」

二人が美香ちゃんの心配をしているのを余所に自然と笑みがこぼれちゃった。





再び目を覚ますと夕焼けの赤で部屋中が染まっていた。

普段、この時間は家にいないから気がつかなかった。

まだ体を動かす気力はなく、真っ赤な天井を眺めていた。

しばらくして、ドアが開く音がし、晃が入ってきた。

「ただいま。なんとか予定通りに終わった」

「そう、よかったね」

晃も真っ赤な天井を眺めながら言った。

「……明日からは東京に戻らないと」

「……寂しくなるね」

自分でも驚くくらい素直な言葉が出た。

どうやら今日は脳が検閲してくれていないらしい。

「弱ってるお前は素直でかわいいなぁ」

「……誰に移されたと思ってんのよ!」

少し怒ったら咳が出てきた。

「よし、じゃあもう一回キスして、俺にまたうつせ」

晃がふざけて顔を近付けてくる。

「ちょっとやめてよ!こっちは病人なんだから」

また咳がでたけれど、不思議と苦しくはなかった。





「よし、じゃあもう一回キスして、俺にまたうつせ」

「ちょっとやめてよまた移ったらどうすんのよ」

楽しそうな声が部屋の中から聞こえて来る。

俺はそっとSEIYOUの袋に入ったゼリーと果物をドアノブにかけた。

「……こうなると思ったよ」

足音を立てないようにそっと引き返す。

床には昨日の台風で飛び散った葉が無残にも散乱していた。






鳥がちゅんちゅんちゅんちゅんとうるさく騒ぐ。

「ああ、もう」

そう言いながら目を覚ますと、ベッドの隣の床で寝てしまっていた。

あいつはすやすやと眠っていた。額に手を当てるともう熱は下がっていた。

ほっとしたのもつかの間、今度は俺の携帯が鳴り響いた。

「もしもし、うん。すぐに戻るよ。今日夕方から仕事入ってんの?わかったってすぐに戻るよ」

慌てて支度をしながら、大事なことに気がついた。

メモ用紙を探しに台所へ行くとちょうどいいものがあった。

冷蔵庫に小さい黒板があった。

黒板には採点(月)まで、報告書作り、(水)まで……のようにいくつか仕事と〆切りが書いてあった。

「こんな情報より、俺の情報の方が大切だ」

俺は何のためらいもなく消し、携帯番号と目が覚めたらここに電話しろよ。また会いにきてやるからと書いた。

美香の寝顔をもう一度確認して静かに戸を開けて部屋から出た。




チュンチュンチュンチュン鳥が外で鳴いている声が聞こえる。

「あぁ、うるさい!」

鳥への苦情と共に目が覚めた。

サイドボードで充電している携帯を見るとまだ6時だった。

あいも変わらず鳥達の声がうるさく聞こえてくる。

肩を回してみると、いつもの感覚に戻っていた。

「熱下がったな、元気だし……今日マスクして学校行くか」

勤労意欲が芽生えてくると、急に喉が渇いてきた。

冷蔵庫から飲み物を取り出し、コップに注ぐ。

飲もうとした時、黒板が書き換えられていることに気がつく。

そういえば連絡先もろくに知らなかった。

村じゃ必要もないんだけど。

それだけ遠くて違う世界に暮らしているということなんだろう

「また会いに来てやるからか。期待しないで待ってるよ」

これからどうなるのか全くわからなかった。

東京まで片道3時間はかかるし、これまでのようにいつでも会えるわけではない。

あいつのまわりにはイイ女が沢山いて……

もし、私の友達が同じ状況だったら間違いなくこういうと思う

「今は燃え上ってるからいいけどね、持って1カ月、そのうち他に女ができて捨てられて終わりだよ。自分だってわかってるんでしょ。そんな恋愛してて本当にいいの?」


作品名:コメディ・ラブ 作家名:sakurasakuko