コメディ・ラブ
勘違い
私が一番嫌いな女は、一日中男のことを考えていて、仕事も自分のこともないがしろにしている馬鹿女。
そう、今の私のことだ。
一時間ぐらい畑の手入れをするふりをしてずっとあいつのことを待っていた。
雲の切れ間から時々、星と月が顔を出す。
もう隣のクラスの畑の草まで刈ってしまった。
やることがなく帰ろうと思ったけれど、気付くと花を摘んで「来る」「来ない」「来る」「来ない」と花弁占いをしている。
重症だ。
自分を言い聞かせ、帰る用意をして校門を出た。
「美香先生〜!!」
聞き覚えのある甘ったるい声が聞こえてきた。
振り向くと、やはり優海ちゃんがいたけれど、隣にあいつが立っていた。
部屋でテレビを見ていたらノックする音が聞こえた。
ドアを開けると、優海ちゃんが立っていた。
「優海ちゃん。どうしたの?」
「晃さん、約束どおり星を見にいきましょう」
優海ちゃんがキラキラした目で言う。
「……そんな約束したっけ」
俺は必死に思い出す。俺が女の子の約束を忘れるなんて。
「もう、晃さんったら。行きましょう」
女の子からの誘いを断るなんて男として最低だ。
俺は迷わず優海ちゃんと一緒に出かけることにした。
小学校の前を通りかかると、ちょうど美香が門から出てきた。
「美香先生〜!!」
優海ちゃんがかけなくてもいいのに声をかける。
何だよ、もう帰るのかよ。
「今から二人で星を見にいくんです。ねぇ」
「……ああ」
俺は何故声が小さくなった。
美香が一言だけ返事をした。
「……そう」
「楽しみ。晃さん流れ星に何お願いする?」
優海ちゃんがキラキラした目できいてくる。
「……えっ」
「優海はね、秘密。もういやだ。晃さんったら」
「えっ?」
俺は正直返答に困った。
「それじゃあね、美香先生」
強引に優海ちゃんに腕を組まれ歩き出す。
何だかまずいことになっている気がする。
俺はあいつの方を振り向き、これは誤解だと言おうとした。
けれどやめた。
今言い訳したら、俺、あいつのこと好きみたいだ。
高台の公園で「あっちのお星様はね、優海なの、こっちは晃さん。二つは」
優海ちゃんが何やら話しているけれど、上の空でだった。
どうして、Aランクの女と星を見にいくのをCランクの女に言いわけしなくちゃいけないんだろう。
あっ、あいつFランクだったのにCランクに上がったな。
なんてどうでもいいことを考えていた。
二人が腕を組んで行ってしまった。
遠くで蝉だけが懸命に鳴いている。
子どもみたいに道にのけぞり返り泣きたかったけれどやめた。
あと10日でロケも終わり、あいつは東京に帰る。
それに、あの二人お似合いだよね……
なんとかアパートまでたどり着いた。
「美香!」
聞きなれた声が聞こえてくる。
「てっちゃん」
「今日は早かったな。慰労会がてらトニーで一杯やらない?」
「なんの慰労会だよ」
「一週間のだよ」
「なんだよ。それ」
お互いに冗談を言い合いながら誰もいない夜の道を歩いた。
作品名:コメディ・ラブ 作家名:sakurasakuko